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「産後太り」Part1~その前に~

2022/02/02

今年もよろしくお願い申し上げます。第3回コラムは実は『正月太り』の方が良かったかなとも思いつつ、前回予告してしまいましたので、『産後太り』についてお話しいたしますね。

そもそも『産後太り』って何でしょう?妊娠中に体重が増えるのは当たり前ですよね。その増えた体重や変化した体型が、出産後に一定期間経った後も元の(妊娠前の)体重や体型に戻らないことを指しているのでしょう。中には戻るどころか、かえって増えてしまう(文字通り産後にさらに太る)方もいらっしゃるかも知れませんね。

今回は『産後太り』Part1~その前に~と題して、『妊娠中』と『妊娠前』の女性の体重についてお話をさせていただきます。

まず初めに、『妊娠中』って一体どれくらい体重が増えるものなのでしょうか?
出産直前の状態で考えてみましょう。

  • 胎児  約3.0kg
  • 胎盤  約0.5kg
  • 羊水  約0.5kg
  • (母体の)血液増加量  約1.5kg
  • (母体の)子宮や乳房の変化量  約2kg
  • (母体の)脂肪増加量  約1~?kg
  • (母体の)組織間液(血液ではない水分、むくみ) 約1~?kg

合計で約10kg前後ですが、その内訳を見ると、胎児・胎盤・羊水など赤ちゃん側の要素と、母体そのものが変化するお母さん側の要素があるようですね。 つまり、出産した途端に減ると期待できるのは、赤ちゃん側の要素の約4.0kgだけで、それ以外は直ちに減るというわけではなさそうです。このお母さん側の要素が、どうやら『産後太り』に関係しそうです。

ところで、妊婦健診では毎回(妊婦の)体重を測りますが、実際に『妊娠中』の体重はどれくらいまでなら増えて良いのでしょうか?

ひと昔(いや、ふた昔?)前には妊婦の体重増加はそれほど問題視されていませんでした。「あなたは妊婦なんだから、赤ちゃんの分まで二人分食べないとね・・・。」と、たくさん食べることを勧められていた時代もありました。

しかし、『妊娠中』に体重が増え過ぎると、『妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)』のリスクが高まると考えられるようになり、1997年に日本産婦人科学会から〈表1〉の【妊娠中の体重増加の推奨値】*1が発表されました。また、出生時の子どもの体重が適正な範囲(妊娠37~41週で2、500g~4、000g)となることを目標に、2006年に今度は厚生労働省から【健やか親子21 妊婦の体重増加の指標(推奨値)】*2が発表されました。両者は似ているけれども微妙に数値が異なっており、どちらを参考にすればよいのか迷ってしまいますね。
この頃から「小さく生んで大きく育てましょう」という言葉が流行り(?)、妊婦さんは健診の度に「体重が増え過ぎていますよ!」と叱られ(?)、「出産までの体重増加は10kg以内、いやいや今や8kg以内!」と指導されるようになっていきました。

〈表1〉従来の妊婦の体重増加の指標(推奨値)

日本産科婦人科学会*1
(1997年版)
厚生労働省「健やか親子21」*2
(2006年版)
妊娠前のBMI望ましい体重増加量妊娠前のBMI望ましい体重増加量
18未満10~12㎏18.5未満(やせ)9~12㎏
18~24(普通)7~10㎏18.5~25未満7~12㎏
24超5~7㎏25以上(肥満)個別対応
BMI:Body Mass Index(体格指数)
体重(㎏)を「身長(m)×身長(m)」で割った値

そんな中、1980年頃からわが国で『低出生体重児(体重2、500g未満で生まれる子ども)』の割合が増え始め、2005年からは全出生数の9.5%前後(およそ10人に1人の割合)と非常に多くなってしまいました。「小さく生む」ことには成功したものの、この「小さく生まれた子どもたち」は将来、『(2型)糖尿病』、『高血圧』、『脂質異常症』などのいわゆる『生活習慣病』を発症するリスクが高いことや、女児の場合、将来、妊娠した際に、『妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)』や『妊娠糖尿病』を発症しやすく、さらにこの女児が低出生体重児を出産しやすくなるなど次世代まで影響を及ぼすことがわかってきました。

参考
『DOHaD説(健康と病気の発生起源説)→将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定されるとする概念』より。

そして、この『低出生体重児』が増えた背景には、「わが国では(妊娠前から)やせている女性が多いこと」(実にBMI<18.5の医学的にいう「やせ」の女性は全体の約10%、 20代女性に限れば約20%で長年推移している)と「妊娠中の体重増加に対する厳しい指導がなされてきたこと」があるのではないかと考えられるようになりました。

日本産婦人科学会では「妊娠中の体重増加を制限したものの、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の予防に明らかな効果はみられなかった」こともあり、新しい基準として、2021年3月に会員(学会に所属している産婦人科医)へのお知らせの中で、表2の【妊娠中の体重増加指導の目安】*3を策定したことを通達しました。厚生労働省もこれを取り入れて、同じく【妊産婦のための食生活指針】改定の概要(2021年3月)*3(共通)を提示しました。これでようやく日本産婦人科学会と厚生労働省の指針が統一されました。

<表2>妊娠中の体重増加指導の目安*3

妊娠前体格*4BMI kg/m2体重増加量指導の目安
低体重<18.512~15kg
普通体重18.5≦~<2510~13kg
肥満(1度)25≦~<307~10kg
肥満(2度以上)30≦個別対応(上限5kgまでが目安)
*3「増加量を厳格に指導する根拠は必ずしも十分ではないと認識し、個人差を考慮したゆるやかな指導を心がける」ために推奨値ではなく目安とした
*4体格分類は日本肥満学会の肥満度分類に準じた

これにより,これまでいわゆる普通体重の人の『妊娠中』の体重増加は『7~10㎏』が推奨値〈表1〉となっていましたが,今回『10~13㎏』が目安〈表2〉と改定されました。つまりBMIが30を超える(2度以上の肥満の)人以外は,『妊娠中』はしっかりとバランスの良い栄養を摂り,体重を適正に増やしていくことが良いとされたのです。これで妊娠中に体重が増えることをあまり恐れなくても良さそうです。これまでのように妊婦健診で叱られることは減ってくるはずですよ。

女性は妊娠すれば当然お腹の赤ちゃんの発育を心配し、赤ちゃんに悪い影響を及ぼす環境を極力避けようとしますよね。その中で母体の栄養状態に関しては、妊娠してから慌てて赤ちゃんの発育と将来を心配し、自分の栄養に気を付けたり、やせ過ぎを(太り過ぎも)直そうとしても、残念ながら、お腹の赤ちゃんの大切な体の器官が形成される妊娠初期には間に合いません。それを考えると、これから妊娠出産をいつかはするかも知れない、いわゆる『妊娠前』の女性は、自分自身の栄養状態や適性体重を保つことに注意を払わなければなりません。元気な赤ちゃんを産み、その子が将来にわたって健康に過ごすことができるように、BMIでは20~22くらいを保てるようにしておきましょう。例えば身長158cmの人ならおよそ50kg~55kgです。特にBMI18.5(体重にして46kg)未満の人は要注意ですよ。

次回は、いよいよ『産後太り』Part2~原因と対策~をお送りいたします。

コラムニスト|ライフサポートクリニック広島 院長:新宅 恵子

ライフサポートクリニック広島

診療内容

内科・「児童・思春期精神科」

所在地・アクセス

〒732-0055 広島市東区東蟹屋町7‐34 重見ビル3F Tel:082-259-3345
  • 広島駅新幹線口よりあけぼの通りの方向へ徒歩5分
  • 広島駅新幹線口より県道84号線経由で約3分

院長  新宅 恵子 

開業のきっかけは,私と同じように悩んでおられる方々のお役に立ちたいという思いからでした。何に悩んでいたかと申しますと,「子育て」と「産後の肥満」です。自分とは似ても似つかぬ個性のわが子と向き合うのは大変でした。子どもを治して欲しいと思ったことがありますが,学んでいくと,結局直さなくてはいけないのは自分たち,親の方でした。
子育てに欠かせない3要素は「愛情と栄養とトレーニング」というコンセプトに基づき,児童・思春期精神科を開業しようと決意した際,自身の肥満是正の経験と,かつて健診センターで仕事をしていた時のジレンマを思い出し,大人にも子どもにも重要である身体への栄養を重視したダイエット外来(栄養外来)も併設することを思いつきました。
開業以来,児童・思春期精神科外来には相談にみえる方が年々増加し,医師一人体制では限界が参りました。徐々にお一人にかける時間を減らさざるを得なくなり,当初目標としていた「栄養」に関してはほとんど触れる暇が無い状態でした。
児童・思春期精神科の初診受付待ちが4ヶ月となった2020年12月から一時受付を休止し,改めて通院中の子どもさんやご家族の基本的生活習慣(栄養,睡眠,運動など)の見直しに取りかかりました。
2021年2月からはダイエット外来(栄養外来)を保険外診療としました。10回程度の教室に通っていただくようなスタイルで栄養について楽しく学んでいただきながら,ご自身の健康管理にお役立ていただくようサポートしています。
(児童・思春期精神科外来は2021年11月現在,初診受付を休止しております。)

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