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市販薬のオーバードーズ(OD)が問題視される理由とは?なぜ社会現象化しているの?

2024/04/15

近頃、市販薬のオーバードーズが蔓延しているのをご存知でしょうか。

ドラッグストアや薬局で特定の薬を入手し、大量に服用する若者が急増しているのです。

新宿の歌舞伎町にある「トー横」と呼ばれるエリアでは、オーバードーズした若者が路上に倒れ込んでいたり無許可で市販薬を販売している方が見られたりします。なぜこのようにオーバードーズが問題視されるようになったのでしょうか。

この記事では、なぜオーバードーズが広がっているのか、オーバードーズするとどのような症状があらわれるのかなどについて詳しく解説します。オーバードーズによって実際に起きた事故や、誤った薬の飲み方をやめる方法についても紹介しているので参考にご覧ください。

市販薬のオーバードーズとは?

市販薬は、麻薬や覚醒剤とは違って所持していること自体は違法でもなんでもありません。また、オーバードーズに使われている市販薬は、どこにでもあるドラッグストアや薬局で誰でも簡単に購入できてしまいます。

市販薬を大量に服用すること

オーバードーズとは、1回で服用する量(dose)が過剰(over)になっていることです。用法用量通りの使い方をせず、何十錠という薬を一気に服用します。市販薬は麻薬や覚醒剤よりも手に入りやすく安価であることから、乱用する方が増えてきました。

10代の薬物使用の推移を見てみると、2014年は危険ドラッグを使う方が大半を占めていたものの、その後少しずつ市販薬を使う方が増えていき、2022年には65.2%の方が市販薬を使用しています。

オーバードーズをしている方の8割以上は女性

東京消防庁によると、オーバードーズにより救急搬送された方の8割以上が女性とのことです。2022年に搬送された人数は、2018年と比べると約1.5倍の1,561人でした。年齢は15歳から19歳、20歳から29歳と若い世代に多いことが分かっています。

オーバードーズと聞くと、快楽を得られて気持ちよくなるものとイメージされている方がいるかもしれません。しかし実際は、救急搬送された方のほとんどは入院し、半数以上で集中治療が行われています。

なぜ市販薬のオーバードーズが広がっているの?

オーバードーズが広がった背景には、市販薬の手に入りやすさが挙げられるでしょう。咳止めや風邪薬など一般にオーバードーズに使われる市販薬は、誰でも簡単に購入できます。

「濫用等のおそれのある医薬品」に該当する成分が含まれている市販薬の場合は、購入時に使用用途の確認や個数制限をされることもありますが、それでも購入を強く規制する法律がないため、結局は誤った方法で使用されてしまうのです。

このように市販薬のオーバードーズが広がっている背景には、簡単に手に入りやすいこと、購入を規制する法律がないことが関係しています。

トー横に広がる青い薬の正体

歌舞伎町にあるトー横のエリアでは「青い舌」をもつ若者が見られます。オーバードーズした証でもある青い舌を仲間たちと見せ合う姿も見られるそうです。

この青い舌は、とある睡眠薬の使用によって着色されたもの。睡眠薬のなかには、飲食物に混ぜて悪用を防ぐために溶けると青色になるものがあります。この睡眠薬をオーバードーズすると、色素が舌について青くなるのです。

トー横では、青い舌をもつ何人もの若者たちが見受けられます。舌が青くなるこの睡眠薬は、本来なら医療機関を受診して処方してもらわないと手に入りません。

しかしトー横では、路上で処方薬を販売している若者がいるため、簡単に手に入ってしまいます。処方薬を販売するために、何件も医療機関を回って睡眠薬を処方してもらっている若者もいるようです。

市販薬をオーバードーズするとあらわれる症状

オーバードーズすると、一時的に幻覚状態になったり強い幸福感を得られたりします。症状はこれだけで終わりません。オーバードーズすると、命に関わるような症状があらわれることもあります。

睡眠薬をオーバードーズしたときの症状

睡眠薬をオーバードーズすると、主に次のような症状が見られます。

  • 著しく判断力が低下する
  • 錯乱状態になる
  • 会話がおぼつかなくなる
  • 昏睡状態になる
  • 痙攣発作を起こす
  • 呼吸が止まる
  • 呼吸が遅くなって息苦しくなる

最悪の場合、呼吸が止まってしまうので注意が必要です。睡眠薬によって脳の中枢がシャットダウンし、死に至ることがあります。

咳止めをオーバードーズしたときの症状

咳止めをオーバードーズすると、主に次のような症状が見られます。

  • 立ちくらみがする
  • めまいがする
  • 強い眠気が出る
  • 吐き気や嘔吐の症状が出る
  • 意識を失う
  • 昏睡状態になる
  • 便秘する
  • 呼吸が止まる
  • 呼吸が遅くなって息苦しくなる

咳止めの場合も睡眠薬と同様に、呼吸が止まる可能性があるため注意が必要です。また、強い吐き気を伴い、嘔吐することもあります。

市販薬でオーバードーズしてしまう理由

興味本位でオーバードーズしている方もいるかもしれません。しかし、「つらい気持ちをなんとかしたい」「生きている実感を得たい」という気持ちからオーバードーズする方もいます。

つらい気持ちをやわらげるため

「家にいるのがつらい」「学校でいじられるのがつらい」「生きていくのがつらい」。若者は毎日さまざまなつらさを感じながら生きています。このつらさを紛らわせるためにオーバードーズに走ることが少なくありません。つらさを誰かに相談できず、薬に頼ってしまいます。

生きている実感を得るため

生きている実感を得るためにオーバードーズしている方もいます。オーバードーズしている間だけ「死にたい」「消えたい」という気持ちがなくなり、現実から逃げられるのです。

ネット上でのつながりを作るため

現実世界で居場所がなくても、オーバードーズをするとネット上でつながりをもつことが可能です。SNSを見ると、「今日は◯錠飲むよ」「一緒にパキる人募集」といった投稿が多く見られます。このような仲間を得るためにオーバードーズする方もいるのです。

オーバードーズで死亡事故も起きている

オーバードーズが原因で酩酊したり嘔吐したりするだけならまだマシなほうかもしれません。大阪市では、オーバードーズによる死亡事故が起こっています。咳止めなどをオーバードーズしたことが原因で急性薬物中毒になり、16歳という若さで亡くなってしまいました。死亡した女性は男性に連れ去られた後に亡くなっています。

オーバードーズをやめる方法

オーバードーズをやめたいと思いながら、薬を手放せない方もいるでしょう。

友人や家族に話を聞いてもらう

つらいこと、悩んでいることを一人で抱え込もうとすると薬に頼ってしまうことがあります。身近に相談できる友人や家族がいたら、抱えている悩みの一部でもいいので相談してみてください。気持ちを吐き出すだけでオーバードーズしなくて済むようになります。

医療機関を受診する

オーバードーズをやめられないときは、医療機関を受診するのがおすすめです。精神科や心療内科を受診すると、適切な治療を受けられます。カウンセリングを同時に受けられるところも多いので、うまく利用しながら薬に頼らないでいい生活を目指しましょう。

保健福祉センターやカウンセラーに相談する

「医療機関を受診するのは勇気がいる」という方は、保健福祉センターやカウンセラーに相談してみてください。市区町村の役場に問い合わせると、該当の窓口につないでもらえます。

オーバードーズで困っていることがあれば精神科や心療内科を受診しよう

オーバードーズで困っていることがあれば、早めに精神科や心療内科を受診しましょう。受診するのが怖いと感じるときは、保健福祉センターやカウンセラーに相談するところから始めてみてください。

オーバードーズは何かがきっかけとなって自分でやめられる方もいますが、漫然と繰り返してしまう方がとても多くいます。命を失ってしまう前に、相談できるところを頼ってオーバードーズをしなくていい生活を取り戻しましょう。

まとめ

市販薬のオーバードーズが問題視されているのは、若者たちが次々と手を出してオーバードーズする方が増加しているためです。一時的に嫌なことを忘れられるかもしれませんが、下手をすると呼吸が止まり死に至ることもある危険な行為です。安易に手を出さず、悩みがあるときは誰かに相談しましょう。

何か悩みを抱えている場合は、保健所や保健センター、精神保健福祉センターなどに連絡をしてみてください。精神科や心療内科を受診するのもよいでしょう。

コラムニスト

薬剤師ライター  岡本 妃香里 

薬剤師としてドラッグストアで働いていくなかで「このままではいけない」と日に日に強く思うようになっていきました。なぜなら「市販薬を正しく選べている方があまりに少なすぎる」と感じたからです。

「本当はもっと適した薬があるのに…」
「合う薬を選べれば、症状はきっと楽になるはずなのに…」

こんなことを思わずにはいられないくらい、CMやパッケージの印象だけで薬を選ばれている方がほとんどでした。

市販薬を買いに来られる方のなかには「病院に行くのが気まずいから市販薬で済ませたい」と思われている方もいるでしょう。かつての私もそうでした。親にも誰にも知られたくないから市販薬に頼る。でもどれを買ったらいいかわからない。

そんな方たちの助けになりたいと思い、WEBで情報を発信するようになりました。この症状にはどの市販薬がいいのか、どんな症状があったら病院に行くべきなのか、記事を通して少しでも参考にしていただけたら幸いです。

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