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ほくろ(色素性母斑)から(メラノーマ)悪性黒色腫は生じるのでしょうか?

2022/10/25

ほくろはごくありふれた色素性の皮膚病変で、大小さまざまの、もりあがったものから扁平なもの、黒いものからあかっぽいもの、生まれつきあるものから生後に生じるものまでいろいろなものがあります。

その病態や分類などは意外に奥が深く、ほくろのがんである悪性黒色腫の発生についてなどまだまだ未解決な点が残されています。

〝ほくろ〟って病気なんですか・・・?正式な病名はなんといいますか?

日本語の病名では、いわゆる〝ほくろ〟は専門的には〝母斑細胞母斑〟や、〝色素性母斑〟とか、〝色素細胞母斑〟と呼ばれます。色がついた母斑はすべて色素性母斑ではないですし(Becker母斑という扁平母斑(ちゃあざ)は色素性母斑ではありません)、あらゆる母斑が母斑細胞母斑というわけではないので(脂腺母斑は異なる疾患です)、〝メラノサイト母斑〟というのが適切な呼び名だとする専門家もおられます1)

〝母斑〟ってなんでしょうか?

母斑の訳語はnevusといい、nevusとはbirth-mark、つまり母親からつけられた生まれつきの印、という意味ですから2)、〝母斑〟はまさに適訳といえましょう。生まれつきの皮膚の色調や形状の限局的な異常を母斑とするなら、形成異常、組織奇形、過誤腫(かごしゅ:特定の細胞が臓器内で過剰に増殖した状態)の概念と共通するものといえるかもしれません。正確には、母斑とは〝遺伝ないし胎生的な素因に基づき、生涯の様々な時期にあらわれ、かつきわめて徐々に変化しうる皮膚面の色ないし形の異常を主体とする限局性皮膚病変である〟と定義されています。

色素細胞母斑はどのように病型分類されますか?

ここからはかなり専門的な話になります。出生時あるいは生後間もなく生じる母斑を先天性色素細胞母斑といい、後天的に(生まれてから時間が経過してから)生じてくるものを後天性色素細胞母斑と分類します。大きさによる分類で代表的なものはKopfの分類で、小型のものを最大径1.5cm未満、大型のものを20cm以上と分類しました3)

後天性色素細胞母斑の組織学的な分類としては存在部位によって以下の3型に分類されます(1)より引用)。

境界部型

母斑細胞が表皮・真皮境界部に限局されるもの。表皮基底層に個別性に限局した、淡い黒みをもつ母斑は特に単純黒子と呼ばれます。

複合型

表皮・真皮境界部と真皮の両部位に母斑細胞が存在するもの。

真皮内型

母斑細胞が真皮内のみに認められるもの。

後天性色素細胞母斑は、年齢とともに境界部型から複合部型を経て、真皮内型へ移行すると考えられています。

色素細胞母斑は悪性黒色腫の発生母地になるのでしょうか?

結論から言うと悪性黒色腫のほとんどは、後天性色素細胞母斑とは無関係に発生すると考えられています4)。ですから、後天性色素細胞母斑のうちの一部が悪性黒色腫になるわけではなく、後天的に生じる(生後に発症する)黒色病変のうち一部のものがもともと悪性黒色腫として発生していると考えられます。

ただしこの考え方には反論もあって、先天性巨大色素細胞母斑の一部のものは悪性黒色腫を生じる危険性が高いことが知られていますし、一部の色素細胞母斑のなかにはBRAF遺伝子という悪性黒色腫でみられる遺伝子異常がみられることがあり、一部の色素細胞母斑のなかには悪性黒色腫の前がん病変的性格がある可能性もあり、今後のさらなる研究がまたれます。

まとめますと、ほとんどの場合ホクロから悪性黒色腫は発生せず、悪性黒色腫はもともと悪性黒色腫として発症するが、巨大なホクロの中にはわずかに例外もある、と考えて問題ないと思われます。

色素細胞母斑の治療はどのようにしますか?

悪性を疑うのでなければ、母斑は辺縁ぎりぎりに切除して縫縮する方法や炭酸ガスレーザーで焼灼する方法などがあります。症例によっては局所皮弁を用いた再建を要すこともあります。整容的な(見た目の)改善を目的することが多いですので、経験の多い皮膚科や形成外科で治療することが望ましいでしょう。

まれにみられる先天性巨大色素細胞母斑は悪性黒色腫の発生母地になりえますので、可能な限り切除できる範囲を順に切除して縫縮または植皮を繰り返したり(連続切除)、エキスパンダーという皮膚を引き伸ばす特殊な器具を用いて皮膚を伸ばして植えたりする方法を繰り返す方法などがありますが、いずれも専門的施設での加療が望まれます。

ほくろだと思われるけれど黒いあざが急にできてご心配な場合は、皮膚科専門医の受診をお勧めします。

参考文献
1) 斎田俊明: 日皮会誌, 115: 1435-1442, 2005
2) 斎田俊明: 皮膚病診療, 22: 413-419, 2000
3) Kopf AW, et al.: J Am Acad Dermatol, 1: 123-130, 1979
4) Saida T: Eur J Dermatol, 4: 252-254, 1994

 コラムニスト紹介

紙屋町やなせ皮ふ科クリニック 院長  栁瀬 哲至 


みなさま、はじめまして。
このたび2023年4月、広島市中区紙屋町に「紙屋町やなせ皮ふ科クリニック」を開業いたしました。
私は広島大学病院や広島総合病院で皮膚科の基礎を研修後、東京虎の門病院に国内留学する機会を頂き、診断学やレーザー、皮膚外科の研鑽を積みました。広島大学病院ではたくさんの重症なやけどや皮膚がん患者の皆様の手術・治療を最前線で行う一方で、大学院では悪性黒色腫など皮膚がんの新規診断法の研究にも従事しました。尾道総合病院、安佐市民病院では地域基幹病院の部長としておよそ10年間勤務し、お子さんからご高齢のかたまで診察し、皮膚のかゆみからアトピー性皮膚炎、乾癬、じんましん、膠原病にいたるまで、特に治療が難しい患者の皆さまを対象に最前線で治療に取り組んで参り、また皮膚がんや皮膚の良性腫瘍をはじめとした手術も数多く執刀いたしました。
開業後は、以下のことをお約束したいと思います。

①常に高い専門性をもち正しい検査と診断のもと、わかりやすいご説明をいたします。
②医師、スタッフともに患者の皆さまに寄り添ったあたたかい診療を心がけます。
③ネットやアプリから順番を予約でき、なるべくお待たせしない診療を心がけます。
④肌の若返りや脱毛、シミ取りなどの美容診療もご希望に応じて対応します。
⑤さまざまな皮膚のできものの手術にも対応します。

皮膚の治療を通じて、患者の皆さまを明るく元気にしたいと考えています。よろしくお願いいたします!

専門分野
皮膚外科、皮膚悪性腫瘍、乾癬、アトピー性皮膚炎、レーザー治療

【経歴・資格・所属学会】
【略歴】
修道高校卒業
2002年 広島大学医学部医学科卒業 
2002年 広島大学医学部附属病院 研修医(秀道広教授)
2003年 公立三次中央病院 研修医
2004年 JA廣島総合病院皮膚科(部長:古谷喜義先生)
2006年 虎の門病院皮膚科(部長:大原國章先生)
2008年 広島大学病院皮膚科 助教
2010年 広島大学大学院 医歯薬学総合研究科 
2014年 JA尾道総合病院皮膚科 部長
2017年 広島市立安佐市民病院皮膚科 副部長
2018年 同上部長
2022年 広島市立北部医療センター安佐市民病院皮膚科 部長(名称改変)
2023年 紙屋町やなせ皮ふ科クリニック 開院予定

【資格】
日本皮膚科学会 認定専門医・指導医(専門医番号:07923)
難病指定医

【所属学会】
日本皮膚科学会
日本形成外科学会
日本乾癬学会
日本皮膚悪性腫瘍学会
日本皮膚外科学会
日本熱傷学会 
日本アレルギー学会
日本美容皮膚科学会 ほか

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