栄養はチームプレーで働いています。「どれが良い」ではなく、各栄養素がそれぞれの仕事ができるように食べる方法として「バランスよく食べる」があります。
日本ではバランスよい食べ方として「一汁三菜」が広く浸透していますが、皆さんは「バランスよく食べよう」というときはどのような意識をされていますか?
今回は、バランスよく食べると体の中でどのような効果があるのか、そして消費カロリーが多いスポーツ選手はどう食べると良いのかをご紹介したいと思います。
栄養素にはそれぞれ体の中での働き(仕事)があります。仕事は独立しているわけではなく、お互いに協力し合い体の機能を動かし維持する仕組みとなっています。
5大栄養素は「炭水化物・たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラル」、うちカロリーのある栄養素「炭水化物・たんぱく質・脂質」はエネルギー産生栄養素(以下、三大栄養素)と呼ばれています。三大栄養素は主にエネルギー源や体の材料になりますが、体内で「代謝」という化学反応を経て、それぞれの仕事場で活躍してくれる栄養素です。この代謝の過程で「ビタミンやミネラル」が鍵となり各化学反応をスムーズに行えるのですが、ビタミンやミネラルが不足してしまうと代謝が行えず代謝異常が起こってしまいます。代謝がスムーズにいかない場合には体脂肪量の増加や血液データ異常の原因になることもあります。バランスよく食べるということは、身体の機能をスムーズに行うための必要な材料を得るための食べ方なのです。
バランスよく食べる方法として一般的には「一汁三菜」をご存じの方が多くいらっしゃると思いますが、私たち栄養士が食べ方をお伝えする際に活用する「四群点数法」や「3・1・2弁当箱法」といった食べ方もあります。どの食べ方も「1食または1日に何をどのくらい食べたらよいのか」を示す「ものさし」として、食材量、食事スタイル、料理でのバランスのとり方を提案しているものです。
どの食べ方が合うかは個人によって異なりますが、食事は毎日のことなので、食材中心に食事を考えるのではなく食事スタイル=皿数を優先して整える食べ方をおすすめする場合が多くあります。その点で「3・1・2弁当箱法」(図1)は、各料理や全体量の目安、そしてどんな料理をどのくらい量を摂ると良いかが分かりやすい食べ方かと思います。この食べ方を簡単に解説すると、自分に合う容量のお弁当箱に「ごはん3:おかず1:野菜のおかず2」の割合で詰めると適量になり、お皿での食事の際にもこのお弁当箱の食事量と同じ量を用意すると適量になるよ、という食べ方です。
「四群点数法」は4つの食品群の中から、性別・年齢で食材の目安量が示されており、図2のように各食品群からの目安量を摂ると適量になるという食べ方です。
また一汁三菜と同じ食材量を摂れるように、一汁一菜で具沢山汁にしたスタイルも献立に悩まず継続しやすい食べ方で我が家もほぼ毎日この「一汁一菜」スタイルを取り入れています。おかずは和洋中なんでもOK。基本はごはんと具沢山味噌汁。パンやパスタの時も具沢山スープとセットにする食べ方です。汁物はどんな食材でも合いますし、具沢山にすることで減塩効果もありますのでおすすめです。
摂るカロリーを気にされる方が多いと思いますが、カロリーの中身(内訳)もポイントです。管理栄養士は、日本人の食事摂取基準(厚生労働省)を元に献立作成やバランスが良くなるための食事をお伝えしています。5年ごとにデータ等が改訂され、最新のものが2020年版となっています。おおよその必要になるエネルギー量(カロリー)は、体重や年齢、性別、活動量などによって推定します。成人女性で1日のカロリーの目安が約2000kcalです。このカロリーの内訳は、3大栄養素の理想割合%が図3のようになっており、これをPFC比と呼んでいます。この割合で食事を摂れていれば、栄養素が各々の仕事、役割に専念することができるため、病気の予防や体の機能向上、体調管理にも繋がります。PFC比が崩れてしまうと「代謝異常」が起こり、血中脂質や血糖、体脂肪の増加など生活習慣病の引き金になってしまうのです。
PFC比の栄養素にも目安%に幅があるように、きっちり細かく管理するというよりも1日、1週間、1か月と期間に幅をもって目安%に近い食事を継続していくことが大切です。そのため細かく考えなくともバランスの良い食事が実践できるように考えられた食べ方の一例が先にご紹介した食べ方になります。
スポーツ選手は一般の方と比較すると、消費エネルギー量(カロリー)が増加する為、食事から必要になるエネルギーも増え、1食当たりの食事量も多くなります。さらにこれらのエネルギー源を体の中で使うためにビタミンやミネラルの必要量も増加します。そのため、毎食6品をそろえましょう!という図4のような食事スタイルをお伝えしています。図4では6品となっていますが汁物と副菜を合わせて1品とし「主食・主菜・野菜(副菜、汁物)、果物、乳製品」の5品を毎食そろえましょうという食べ方を示すこともあり、「栄養フルコース型の食事」と呼ぶこともあります。
練習やトレーニング、試合などで選手たちはたくさんの栄養素を使い身体を動かしています。栄養素が不足してしまうと、疲れやすく、怪我をまねいたりと、コンディションやパフォーマンスを良い状態で保てなくなってしまいます。また成長期の選手が栄養不足の場合、背が伸びない、身体が大きくなりにくい、スポーツ傷害が起こりやすい、女子選手の場合は月経障害などを引き起こす可能性もあります。
ある特定の栄養素が必要というのではなく、どれも必要です。スポーツ選手として活躍したいならば、食事量や内容を意識していくことが選手としての心構えです。もちろん個人により食事環境が異なるため、より見合った食事量や品数、食材など選手に合う食べ方をサポートすることが公認スポーツ栄養士や管理栄養士の仕事なのです。
以前のコラム(トップアスリートだけ食事が重要なのか?)でご紹介したように、競技レベル問わずスポーツをしている人にとって食事は重要な役割を担っています。
ジュニア選手は、学年が上がるごとに運動量の増加や競技レベルも上がってきます。意識して食事を食べていなければ栄養素が不足してしまい、集中力や持久力の低下などから骨折・靭帯損傷などのスポーツ外傷やシンスプリント・疲労骨折などのスポーツ障害を引き起こすことがあります。特に小中高生は1年間通して試合があるので怪我による離脱や思うように練習ができない状態は防ぎたいものです。日々良いコンディションで練習ができれば練習の質もあがり、競技力向上にも繋がります。食材によって含まれる栄養素が異なりどれも大切な栄養素なので、好き嫌いなく何でも食べられる選手をぜひ目指してほしいなと思います。そのためには、子ども達が「食に興味をもつ」が大切ですが、大人の関りがとても重要です。ぜひ子ども達と食でコミュニケーションをとっていきましょう!
ソフトボール部だった10代の頃からスポーツ傷害や体重管理、食事に悩まされた経験からNSCA認定パーソナルトレーナーと管理栄養士の資格を取得。
大学卒業後、大手フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムでの運動・栄養指導に携わる。その後、学生から実業団アスリートの寮食献立作成や選手サポート、セミナー講師などの業務に従事。さらに専門的な知識やスキルを習得するためスポーツ栄養の専門家である公認スポーツ栄養士の資格を取得し、これまで700名以上の指導に携わる。
現在、「広島のスポーツを食で盛り上げる」をモットーに、スポーツ栄養サポート・普及教育活動・食環境整備などに力を入れ、セミナー講師、チームスタッフ、企業アドバイザー、専門学校非常勤講師など各分野で選手や広島の方を食で支える取り組みを行っている。
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