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呉共済病院の乳腺外科医師である網岡愛さん。乳がんの研究と治療に向き合いながら、乳がんの啓発活動に携わる「ひろしまピンクリボンプロジェクト」にも関わってきました。10月の「ピンクリボン月間」を前に、医師として、女性として、乳がんに関する思いや、多くの人に知っておいてほしいことなどを語っていただきました。
呉共済病院の乳腺センター外来診療室でインタビューに応じる網岡愛さん
「乳腺外科」の医師を志したきっかけがありますか?
将来の職業として、医師という道を考え始めたのは、子どもの頃の体験がきっかけです。小学生で大きなやけどを負った時の主治医が女性の先生で、女性が活躍できる職業であると感じました。その後シュバイツアーの伝記を読んだりして、医師という職業への思いを深めていましたが、バスケットボール部に所属していた高校2年生の夏に半月板を損傷し手術を受けることになりました。身体の自由がきかない状況から回復へと導いてくれる、医学と医師にますます感銘を受け、そこからさらに猛勉強して医師を目指しました。
専門として「乳腺外科」を選択したのは、女性だからこそ提供できる医療があると考えたからです。乳房の疾患というのはセンシティブな分野でもあり、女性医師の方が相談や受診に抵抗が少ない患者さんも多いのではないか、また女性の立場で共感し寄り添うことで力になれることがあるのではないかと思っています。
最新の統計では、生涯で乳がんを患う日本人女性は「9人に1人」と聞きました
乳がんは女性で最も罹患率の高いがんです。日本は欧米と比較すると罹患率が低く、数年前まで「11人に1人」と言われていましたが、年々上昇傾向にあります。
「9人に1人」ということは、極端に言えば友人や職場などの女性を9人思い浮かべて、その中の誰か1人が乳がんを患うという確率。女性であれば、それがご自分かもしれないし、男性であれば、それが奥様やお母様かもしれないと考えると、とても身近で他人事ではない病気と感じていただけるのでないでしょうか。
乳がんの死亡数・罹患数の推移。罹患数が増加していることがわかります
〈引用:乳房:[国立がん研究センター がん統計] 5.年次推移 - 年次推移について詳しく見る -2)年齢調整の罹患率と死亡率 より〉年代別でみると、2018年のデータでは、乳がんの罹患率は30代後半から増加し始め、40代後半まで上昇し、そのまま罹患率は下がらずに60代後半がピークになります。社会や家庭での責任・負担が多い年代です。自分のことは後回し、家族や組織のことを優先してしまいがちな頑張り屋さんの女性が多くいらっしゃる年代でもあります。一方、数は少ないものの20代で発症するケースもありますし、70代・80代でも乳がんを発症します。
乳がんの年齢別罹患率の推移。30代後半から急増し、以後高い水準を維持します
〈引用:乳房:[国立がん研究センター がん統計] 2.罹患(新たに診断されること) - 罹患について詳しく見る -2)どの年齢層で多いか より〉乳がんの発症リスクとしては、どのようなことが考えられますか?
食生活の欧米化に伴い、高タンパク・高脂肪の食事から日本人女性の体格が良くなり、初潮が早く閉経は遅い人が増えています。また女性の社会進出に伴い、妊娠・出産を経験する人が減少し、女性の生涯経験する月経回数が多くなりました。月経中はエストロゲンが多量に分泌されるため、月経数の増加は乳がんの罹患に影響を及ぼしている可能性があると言われています。
このようなことから、以下にあてはまる方は、より注意が必要と言えます。その他のリスク因子と共に挙げてみます。
● 初潮が早く閉経が遅い人
● 出産したことのない人や出産数が少ない人
● 授乳したことがない人や授乳期間の短い人
● 喫煙(受動喫煙も含む)、飲酒の習慣がある人
● 糖尿病、ステロイド剤、免疫抑制剤の投与がある人
● 乳癌又は卵巣癌を発症された血縁のご家族がいる人
乳がんの生存率はどうですか?
乳がんは、早期発見できれば生存率の高いがんです。比較的早く見つかったステージ0・ステージ1の場合、10年生存率は約90%以上。全症例でも10年生存率の平均は約80%ですが、ステージが進むと10年生存率は悪化していくため、早期発見がとても重要です。
早期発見のために欠かせないのは、検診です。日本は残念ながら諸外国に比べても受診率が低く、50%にも達していません。現在、国では40歳以上の女性に2年に1回、問診とマンモグラフィ検査(乳房エックス線検査)を推奨しています。自治体のクーポンなども活用して、定期的に検査を受けてほしいと声を大にして伝えたいです。
また加えて行っていただきたいのが、セルフチェック。呉医療センター・中国がんセンター 乳腺外科の木村優里先生が、このFamily Dr.の中にわかりやすいページを設けてくださっていますので、参考にしてぜひ月に一回の習慣にしてください。
乳がんセルフチェック
https://www.family-dr.jp/?selfcheck=15561
ひろしまピンクリボンプロジェクトの活動について教えてください
広島では、2011年に乳がん患者さん同士がおしゃべりをしながら情報交換をしたり、乳がんについての勉強をしたりする場として、「まちなかリボンサロン」が生まれました。医師、薬剤師、看護師、臨床心理士、作業療法士たちが毎月1回、乳がんの患者さん、ご家族と交流を深めながら活動の幅を広げ、2016年に医療従事者が中心となって「NPO法人 ひろしまピンクリボンプロジェクト」を設立しました。
私は、その理事長である角舎学行先生の下で学んでいたこともあり、活動のサポートに携わってきました。特に思い出深いのは、広島東洋カープのご協力を得たカープピンクリボングッズの製作を任されたこと。老若男女を問わず長く飽きずに愛されるものにしたいと思い、周囲の人にもリサーチしながらデザイン会社様とやり取りを重ねて完成させました。
カープピンクリボンバッジ。網岡さんが製作に携わったカープ坊やとカープ女の子の4種に、
スライリー2種も加わりました。ひろしまピンクリボンプロジェクトのHPにて販売中
https://pinkribbon-h.com/category/item/
カープピンクリボングッズの売り上げは、乳がん活動グループへの支援、女子高生・女子大生のための乳房についての出張講義、「ひろしまウィッグマップ」、「おしゃれに過ごしたい」、「ひろしま乳がん副作用ガイドブック」の乳がんに関する冊子の出版などに役立てられています。
10月は、乳がんの早期発見・早期診断・早期治療の大切さを伝える活動「ピンクリボン運動」の強化月間です。ひろしまピンクリボンプロジェクトのHPには、乳がんについて役立つ情報や活動をたくさんご紹介していますので、ぜひご覧いただき、改めて乳がんについて考えるきっかけにしていただけると幸いです。
ひろしまピンクリボンプロジェクトの活動:広島乳がんアカデミアを、広島テレビの街角伝言板で宣伝
高校まではバスケット、大学ではテニスに明け暮れる日々であった体育会系人間。バスケット中の怪我が決定的なきっかけとなり医師を志す。焼肉屋のアルバイトでは接客業のなんたるかを少し学ぶ。臨床医になる人間は学生中に接客経験をすべし、と密かに思っている。
初期研修中は内科専攻を考えていたが、「君は内科って感じじゃないよね」と当時の内科指導医に言われ、妙に腑に落ちる。その後、男性優位の医療界において、女性医師であるからこその医療ができるのでは、手術のある科は性分に合っていそう、との動機で乳腺外科に進路を決める。
乳がんになっても綺麗に手術することで術後も前向きな生活を取り戻してもらいたい、女性ならではの視点も忘れず辛い治療を頑張る患者さんを励ましたい、例え厳しい病状で病気が見つかっても穏やかに明るい気持ちで日々を過ごして貰いたい、そんな思いで日々の診療に臨む。患者さんから「先生に診てもらえて良かった」の一言を頂ける瞬間が、本当に嬉しく、ありがたく、明日への活力となっている。