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食欲について考えるパート2

2022/08/22

『別腹』という言葉は今でも通用しているのでしょうか?

これこそ生理的な脳の働きに勝る『快楽』を優先する飽食の原因ではないでしょうか?

食べ過ぎだと感じても、食べることが止められないのは何故なのか?

「食べ過ぎている人は、あまりに飽食過ぎて、満腹中枢が上手く作用しなくなっているのかもしれないので、食べる時間を見直して、少しゆっくり食べるようにしてみてください。」という事を書きました。

食欲と言う機能はとても大事で、これがなくなると生命が維持できなくなるという事も書きました。

認知症で食べることを忘れてしまうと、強制的に経管栄養や輸液で栄養補給をしなくてはならなくなります。それは当事者にとってはとても苦痛なものになってしまいます。

先日、孫の『お食い初め』のお祝いをしました。遠方でコロナ禍でもあり100日目にして初めて会いましたが、毎日のように送られてきた何十枚という写真を連続して見ると成長のめざましさが一目瞭然。3か月で体重は倍になり、身長は10cmも伸びるのですから、考えてみたら驚くばかりです。体重3㎏の赤ちゃんはおよそ1日に500㏄ものミルクを飲むようです。

そういえば夜、昼構わず泣いて、おっぱいに吸いついていたのを思い出します。1年後には10㎏位(約3倍)の体重になって歩き出すのですから。ミルクを欲しがる泣き声を、何とも頼もしい思いで聞きました。

この頃の赤ちゃんは成人の3倍ものカロリーを摂っているようです。

乳児期の赤ちゃんの体重はカウプ指数(体重g÷身長cm²×10)により判定します。13未満をやせ、13~15をやせ傾向、15~18を正常、18~20を肥満傾向、20以上を肥満とします。しかし乳児の場合は体重の77%が水分なので、ミルクを減らしたり減量を考える必要はありません。

しかし、幼児期の肥満は活動量が増えれば解消することが多いですが、学童期になっても肥満が続いている場合は解消しにくく、成人期の肥満に移行する場合が多いので、食習慣や生活のリズムの乱れなどを見直してみましょう。子供の肥満は家庭の食事や生活習慣による場合が多いので、家族全体で生活改善に取り組みましょう。

食欲を抑えられなくて、つい食べ過ぎてしまい肥満になった、お腹が出てきたという肥満と健康に障害をもたらす肥満症は分けて考えなければいけません。

医学的に治療(減量)しなければいけない肥満症の診断基準が決められています。これはBMI(体重㎏÷身長m²)25以上を肥満症として、肥満が健康に障害があるかどうかで分類されています。障害がある場合は、肥満状態を解消する努力をしてください。見た目だけの問題ではないので、太鼓腹を叩いて笑ってはいられません。昨今の腹が突き出た男性や首が無くなるほど太ってしまった女性を見ると、「このままではまずいよ」と声をかけたくなります。

そこで、今回は肥満のリスクをしっかり認識していただこうと思います。

肥満に起因ないし関連し、減量を要する健康障害 (肥満症診療ガイドライン 2016 より)

  1. 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
  2. 脂質異常症
  3. 高血圧
  4. 高尿酸血症・痛風
  5. 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
  6. 脳梗塞:脳血栓症・一過性脳虚血発作(TIA)
  7. 脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患/NAFLD)
  8. 月経異常、不妊
  9. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)・肥満低換気症候群
  10. 運動器疾患:変形性関節症(膝、股関節)・変形性脊椎症、手指の変形性関節症
  11. 肥満関連腎臓病

これらの健康障害を回避するためにも、まず現体重からの減量を目指してください。BMI25~35までの肥満症ではまず3%以上の減量目標を設定して減量を始めてください。BMI35以上の高度肥満症では5%~10%の目標を定めます(この場合は合併する健康障害に応じて目標を調整する)。高度肥満症では外科手術という方法もありますが、既に合併する疾患がありなかなか難しいようです。

上記のような健康障害をもっと皆さんが意識して、『別腹』という発想からなる『快楽』を優先するのではなく摂食中枢と満腹中枢が上手く働くように、なるべく時間をかけてしっかり食事をしましょう。

ただ、食事の過剰摂取ばかりが原因ではなく次のような症候性肥満があります。

  • 内分泌性肥満
    副腎皮質ホルモンの過剰などホルモンの異常が原因
  • 遺伝性肥満
    先天性の病気による肥満
  • 視床下部性肥満
    食欲をつかさどる中枢の障害が原因で発症する
  • 薬剤性肥満
    経口避妊薬、ステロイド薬、抗精神病薬など

食欲と言うのは胃の働きだけではなく、脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢によって調整されていることが分かっています。摂食中枢が働くと食欲が起こり、満腹中枢が働くと食欲は収まります。

前回でも書きましたが、代謝に関わる消化液や酵素は分泌リズムを作っていて、これを無視した生活は健康を害することになります。例えば夜間にたくさん分泌されるという成長ホルモンは脂肪合成抑制作用を持ち、肥満防止と体重調整効果が期待されます。一方、消化機能のピークを過ぎた深夜の時間帯に脂肪を多く含む食品を食べると、脂肪合成が亢進され肥満の原因になります。

これらのことを知っていれば生活習慣を整えるだけで、肥満を解消できる場合もあります。

次回はいろいろな場合を想定して、『食欲』を理性で抑える肥満解消の方法を考えてみたいと思います。

コラムニスト

管理栄養士  伊藤 教子 

長年、管理栄養士として病院の給食管理・栄養管理に従事後、現在、内科糖尿病専門医院にて糖尿病を中心とする生活習慣病、高齢者の低栄養等の栄養食事指導をしています。
ライフワークとして「あなたの体は、あなたの食べたものでできている」ということを意識した「食」の啓発活動を行なっています。

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