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食トレはとにかく「量を多く食べる」ほうがいいのか?

2021/12/06

たくさん食べることって本当に身体作りに必要なのでしょうか?

学生スポーツの現場に関わることが多いのですが、「体を大きくさせたい、体を太く強くさせたい」と指導者や保護者の方から要望があります。チームによっては、全員ごはん量をノルマ化したり、昼食弁当の重さを計ったり、タッパーに敷き詰めたごはんを持たせたり、お米に関する食事の取り組みを行っていることが多くあります。

競技特性上、体が大きく強いほうが良い競技も多くあります。しかし、この食事量を多く摂る取り組みが本当に選手の身体作りに活きているのか、選手のためになっているのか、ここが一番重要なことだと考えています。

ただ食べさせているだけになっていませんか?

食事の取り組みをされているチームは多くありますが、「何のために食べるのか、なぜこの量を食べているのか」といった部分を選手が理解していないケースを見かけます。
私自身も高校時代、お米は「量」を食べようと言われていましたが、食べないほうが動きやすい、調子が良いと感じていました。食べる必要性や食べることでどう競技に繋がるのかといった「理由」を考えたことがなかったので、競技力は練習をすることだけで強く上手くなれるんだ、そう思っていました。

もし、食事で体や心がどう変わるのか「理由」を知り実践していたら、怪我や競技力は違ったかもしれません。

理由を知り考えることで、食への向き合い方が変わると考えています。競技力もそうですが、ただやらされているよりも、自分で考え主体的に取り組むほうが伸びしろは大きいですよね。

体を大きくする、強くなるために食事の取り組みをする、そして、この食事の取り組みがなぜ体を大きくするのか、強くなるのか、なぜこの量なのか、何のために食べるのかといったことを選手達とも共有していくことがとても大切ではないでしょうか。食事は毎日のことなので、選手たちが考えて実践する力も育てていくことで継続、変化と良い循環が生まれます。指導者側の意図が伝わらず、やらされているだけになっている選手もいるので、なぜ食べるのか、といった食事の役割や選手の意識を改革する時間やコミュニケーションをぜひ設けて頂ければと思います。

チーム統一の取り組みでいいのでしょうか?

チームスポーツの場合、様々な体格の選手がいますが、チームで統一の食事の取り組みをされているところが多くあります。男子選手の場合、高校生でも背が伸びていて成長期真っ最中の選手もいます。そして、学年やポジションによっても求められる体格は異なります。

選手は一般の方と比べると消耗するエネルギー(カロリー)量が多く、その上で身体を大きくするためにプラス量を食べることが必要です。しかし、消耗するエネルギー量は各選手によって異なり同じではありません。また、胃腸の力(消化吸収力)は個人差があり、1回の食事で量を摂りきれない選手もいます。様々な個人差がある中で、チーム全体の取り組みとして「量」を統一したノルマを課すことは食に対して恐怖心を抱く選手もでてしまう可能性もあります。チームで食事の取り組みを行うならば、全員が意識できることをチーム目標(目的)としさらに個々で取り組むべき内容を各自の目標として設定するほうが、主体性も育成することにも繋がると考えています。

食事は一生のことなので、ただ強くする、ただ体を大きくする、といったことではなく、競技を通した食の取り組みが選手の財産になるような支援や育成をしていく観点もぜひ持って頂きたいです。

楽しくない食事時間は消化吸収力に不調がでる?

たくさん量を食べても体の中に吸収されなければ、食べたものの力が発揮されません。身体作りやパフォーマンスの向上・発揮のためには、食事の量やバランス、タイミングだけでなく、消化吸収力(胃腸の力)も鍵になります。

選手(運動している人)はしていない人に比べて、消化吸収を効率よくできません。消化吸収が促される時は副交感神経が優位に働いている時、いわゆるリラックスしている状態の時です。選手は、食後も練習や試合などでアクティブに動いていており交感神経が優位のため消化吸収がスムーズではないことが多くあります。そして体が消化吸収に集中できる時間が少ないのにも関わらず、食事の量が多く必要になるという矛盾が起こっているのです。

また食事の時間はリラックスして食べているほうが体にとっても心にとっても効果的なのですが、ピリピリと緊張感のある雰囲気で食事をしているチームもあります。私も選手時代に同じような経験があります。特に試合初戦は緊張をしていることがあり、選手自らがリラックスできていない場合もあります。緊張は交感神経が優位になるので、食事が喉を通りにくい、食欲がでない、消化吸収が抑制されるといった状態になります。

選手がリラックスして食べられる環境や食事時間こそが強くなるために必要な時間です。

子どものころからの食習慣こそ未来を切り開く力

食事の取り組みに苦労する選手の中には、子どものころからの食習慣の影響が大きいと感じることがあります。味覚や嗜好、食べ方、食べてきたもの、食への考え方、食の環境など、生活をする中で自然と私たちは身につけているものには個人差があり、その環境と異なる場合に苦労している姿を見かけます。

「遺伝かも」と言われることもありますが、アスリートの場合、遺伝的(先天的)要因は約3割、残りの後天的要因が約7割影響しているそうです。例えば、食べ方や食べてきたもの、食への考え方などは後天的な要因であり、自分の意識次第で変えていくことができる部分です。後天的な7割の部分はとても大きな要因であり、積み重ねてきた習慣は簡単には変えられないものもあるので、競技力があがる前から、幼児期、学童期など各時期で獲得したい食の力を養って頂きたいと思っています。食の力も学習と同じでステップアップが必要です。毎日の食意識の積み重ねが未来を切り開く大きな力、競技力向上の土台となります。

今コラムのまとめ

  • 食べる目的など選手が食の取り組みを学び、実践することで結果に繋がる
  • チームの目標は目指す方向を、個人の目標は行動(実践)内容が選手を育てる
  • 楽しく食べるほうが体も心も強く鍛える
  • 子どものころからの食意識の積み重ねが競技力向上の土台となる
  • 食を通じたコミュニケーションは選手を育成し、競技力・人間力向上に繋がる

今回は身体を大きくする食事の取り組みについてご紹介しましたが、減量や身体のサイズを意識する競技でも様々な食事や健康問題が起こっています。競技のための身体作りの土台には心と体の健康があってこその競技ですので、その土台つくりをも担う食事を大切にするチームが今後も増えていってほしいと願っています。

コラムニスト

管理栄養士・公認スポーツ栄養士  馬明 真梨子 

ソフトボール部だった10代の頃からスポーツ傷害や体重管理、食事に悩まされた経験からNSCA認定パーソナルトレーナーと管理栄養士の資格を取得。
大学卒業後、大手フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムでの運動・栄養指導に携わる。その後、学生から実業団アスリートの寮食献立作成や選手サポート、セミナー講師などの業務に従事。さらに専門的な知識やスキルを習得するためスポーツ栄養の専門家である公認スポーツ栄養士の資格を取得し、これまで700名以上の指導に携わる。
現在、「広島のスポーツを食で盛り上げる」をモットーに、スポーツ栄養サポート・普及教育活動・食環境整備などに力を入れ、セミナー講師、チームスタッフ、企業アドバイザー、専門学校非常勤講師など各分野で選手や広島の方を食で支える取り組みを行っている。

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