「増量させたいから米を1日2kg食べさせています。」「増量のためにプロテイン飲んでます。」スポーツ現場でよく耳にする話です。
取り組む内容が注目されがちですが、栄養サポートする際に選手たちには、取り組んだ内容と結果がどうリンクしているのかを振り返ってみよう!と話をしています。
増量のための食事はやみくもに食事量を増やし、食べればいいわけではありません。
スポーツ選手は一般の方と比べ、食べる量を増やす必要がありますが運動中は消化吸収が抑制される影響で消化吸収の効率がよくなく身体作りがうまくいかない場合があります。特に増量は食べる量をより増やす必要があるので消化吸収の要である「胃腸の力」がポイントになります。
増量は理論的には消費するカロリーよりも食事から摂るカロリーを500~1000kcal/日多く摂る必要があります。選手の増量は、ただ体重が増えればいいわけではなく、体のサイズを大きくし筋肉量を増やし体脂肪量は減らしていきたいという要望がほとんどです。筋肉を大きく増やしていくためには食事の前に「トレーニング内容」が増量に適した内容や回数であるかも重要となります。
また、たくさん食べているのに、体のサイズが大きくならない選手は中高校生ではよく見かけます。特に男子高校生の選手はまだ身長が伸びていて成長期が終わっていない選手もいます。食べる量には限界があるので身長が伸びている時期に筋肉をつけてサイズアップ・体重を増やしていくことは、かなり大変なことです。成長期の選手は時期を考えて取り組む必要があり、○○を食べるだけでは解決できないことも多くあるのです。
そのうえで増量するための食のポイントは胃腸の力、食事量、食事のタイミングです。今回は胃腸力についてご紹介していこうと思います。
胃腸は食べたものを「消化吸収」する器官です。バランスよく質のよい食事を食べたとしても「消化吸収」ができていなければ身体の材料にもエネルギー源にもなりません。食べたものが「余すことなく消化吸収されて体の中に入ってこない」ともったいないですよね。
胃腸の調子は毎日の便で確認することができます。便の色、状態、におい、排便回数、タイミングなどがポイントで理想的な便はバナナうんちで黄褐色、においが少なく、スルッとでる小ぶりのバナナ2本分程度の便です。下痢や便の回数が多い選手は胃腸機能が低い、または落ちている可能性があります。皆さんは毎日のお通じ、いかがでしょうか?
また「消化吸収」はリラックスしている状態=副交感神経が優位な時に活発になります。しかし、運動中は交感神経が活発であり、運動以外の時でも選手はストレスや緊張を感じていることも多くリラックスしている時間が一般の方よりも少ない状況です。効率よく消化吸収ができない環境や身体の状態があります。だからこそ、「胃腸の機能を高める食べ方や食事内容」が身体作りには大切となるわけです。
胃腸は筋肉で出来ていますが、自分の意志で動かすことができません。胃腸を活発に動かし、鍛えるポイントは、「よく噛んで食べること」、そして「美味しいなと感じながら食べること」です。これにより唾液の分泌が促され、胃腸がしっかり働くことができ消化吸収力アップに繋がります。よく噛む8大効用として「ひみこのはがいーぜ」という標語があるのですが、噛むことは胃腸の健康だけでなく心身の健康に繋がる食べ方です。皆さんは毎日の食事でどのくらい噛んでいますか。
米トレ、タッパーごはんなど増量において、お米をたくさん食べる取り組みは以前から行われていました。私自身も高校ソフトボール時代はごはん大盛りやおかわり必須などお米の取り組みがありました。こんなにたくさん食べたら胃が重くて練習できないけど、、、と当時から思っていましたが、同じ量を食べていても平然としている選手もいました。この差が「胃腸力の差」です。
胃腸力アップには「噛む」を促す食事がポイント。やわらかいものより噛み応えのあるもの、小さいものよりも大きいものが咀嚼を促します。洋食化がすすむ昨今、洋食よりも和食のほうが咀嚼回数は多く、和食中心がおすすめです。特に食事量の約半分を占める主食の選び方は大切です。主食にはお米、パン、麺類などがあります。この中で、噛む回数が促されるものは「お米=ごはん」です。お米は粒食なので、必然的に咀嚼は促されますが、「噛む」を意識することでより噛む回数を増やすことができます。
お米をたくさん食べているけれど、2、3回噛んでゴックンとしませんか?噛むことで唾液の分泌が促され、消化が始まります。唾液には消化酵素が含まれているので、口の中から消化は始まっていますし、美味しそうと感じ唾液が出てきた時点で消化運動のスタートです。お米をたくさん食べているけれど、体が大きくならない、そんな選手は食べ方を見直してみてはいかがでしょうか?食べ方も大切です。
プロテインはたんぱく質の栄養補助食品(サプリメント)です。食事から補えない場合に活躍する食品ですが、昨今のプロテインブームでたくさんの商品を目にする機会が増えました。スポーツ選手はアンチ・ドーピングの観点から「認証マーク」のある商品を活用するようにしましょう!詳しくはスポーツ栄養Webアンチ・ドーピング情報をご参照ください。
またジュニア選手の場合は、サプリメントを多用しないといけないほどの練習量やスケジュールであれば、まず練習やスケジュールを見直して頂きたいです。成長を阻害する可能性も否めませんし、ジュニア期は食事の食べ方や習慣を身につける時期でもあります。年齢や目的に応じてサプリメントの活用は考えていきたいものです。
また、先述したようにプロテインはたんぱく質の栄養補助食品であり、飲んでるから筋肉増えるという安易な考えを持たずに、毎日の食事を軸にトレーニング内容と併せてサプリメントの活用は考えていきましょう!プロテインを活用せずにゴツく増量した選手もいます。
身体作りの栄養目標量や基準値などエビデンスやガイドラインがありますが、実際の現場ではこれらのデータを参考に、個人に合わせて経過を見ながら栄養サポートを行っています。
その中で、多くの選手はみっちりと個人サポートを受けることができるわけではないので
自分の身体の変化を体感し、数値を見て、食事のことを考えることができるようにサポートしていきます。毎日体重を計り食事内容を考える選手もいますし、練習をしていて体が重いなと感じて目標体重や取り組みを見直す選手もいます。お米は目標量を食べているけれど、なかなか体重が増えなかったがある食品を食べ始めたら体重が増え始めたなど、身体の変化と食事をリンクしていくこと、そして自分の意志で決定し、取り組むことが増量する選手に必要な食の力だと感じています。自分の身体のこと、競技のことなど目的を持ち取り組むことで、自分の持ち味や身体作りのコツなどを見いだせるものではないでしょうか。
その積み重ねが今後の競技人生にも活き、さらには引退後の健康というところにもつながるものです。だからこそ食事を通して競技を見据える、飽食の時代だからこそ、どんな選手でも食の力を養うために食べることを考える時間を作ってもらいたいなと思います。
ソフトボール部だった10代の頃からスポーツ傷害や体重管理、食事に悩まされた経験からNSCA認定パーソナルトレーナーと管理栄養士の資格を取得。
大学卒業後、大手フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムでの運動・栄養指導に携わる。その後、学生から実業団アスリートの寮食献立作成や選手サポート、セミナー講師などの業務に従事。さらに専門的な知識やスキルを習得するためスポーツ栄養の専門家である公認スポーツ栄養士の資格を取得し、これまで700名以上の指導に携わる。
現在、「広島のスポーツを食で盛り上げる」をモットーに、スポーツ栄養サポート・普及教育活動・食環境整備などに力を入れ、セミナー講師、チームスタッフ、企業アドバイザー、専門学校非常勤講師など各分野で選手や広島の方を食で支える取り組みを行っている。
スポーツ選手や運動をしている方の食事の重要性は年々周知されるようになり、スポーツ現場で管理栄養士や公認スポーツ栄養士が関わることも増えました。
しかしながら、栄養サポートへの認識に対するギャップを感じる現場も多くあり、本来の栄養サポートや私たち公認スポーツ栄養士ができる取り組みに対してまだまだ知られてい...続きを読む
スポーツ選手の減量は「体重」を減らすということではなくて、「体脂肪」を減らすことが目的です。
体重を減らしたいからといって、食事回数を減らしたり、欠食したり、ある食品だけを控えたりすると、トレーニングに必要な栄養素が不足してしまうことで筋肉が分解され筋肉...続きを読む
女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad:FAT)は、1997年にアメリカスポーツ医学会にて提唱された概念です。
当初は「摂食障害」「骨粗しょう症」「無月経」の3つを指していましたが、2007年に「利用可能なエネルギー不足(摂食障害の有無に関わらず)」「視床下部性無月経」「...続きを読む
栄養はチームプレーで働いています。「どれが良い」ではなく、各栄養素がそれぞれの仕事ができるように食べる方法として「バランスよく食べる」があります。
日本ではバランスよい食べ方として「一汁三菜」が広く浸透していますが、皆さんは「バランスよく食べよう」というときはどのような意識をされていますか? 今回...続きを読む