市販薬は用法用量を守って服用することが基本です。しかし、「多めに飲むと効くのでは?」と誤った認識をしている方も時々見受けられます。
多めに飲むことで病気が早く治ることはありません。
また、効き目が良くなることもないため、正しく服用することが重要です。今回は、市販薬を多めに飲むとどのようなリスクがあるのかについて詳しく見ていきましょう。
「市販薬は多めに飲むと効きやすくなる」「早く治すために市販薬を多めに飲もう」などと思っている方はいませんか?市販薬を多めに飲んでもメリットは何一つありません。
「オーバードーズ」という言葉をご存知でしょうか。略して「OD」と呼ばれることもあり、薬を大量に服用することを指します。市販薬を多めに飲むことは、オーバードーズにつながる可能性がゼロではありません。多めに飲むことが止められず、依存症のようになってしまうこともあります。
オーバードーズと言えば、少し前までは覚醒剤や危険ドラッグ、睡眠薬などの使用が目立っていました。しかし、ここ数年で市販薬を使ったオーバードーズが急激に増えているのです。オーバードーズには、咳止めや風邪薬がよく使われています。
これらの薬には麻薬や覚醒剤と似たような成分がごく少量含まれているため、多めに飲むことでいわゆるハイになった状態になるのです。ちょっとした気の迷いで市販薬を多めに飲むことで、人生を狂わせてしまう可能性があります。
薬を飲む量は、薬がどのように代謝されてどの量までなら安全なのかなどを確認したうえで決められています。細胞や動物実験、臨床試験などを通して安全に使える量を厳密に確認しているのです。
市販薬を多めに飲むと、安全に使える量を超えてしまうため副作用が起こるリスクが高まります。しかも、多めに飲んでも服用量に比例して効果が高まることはありません。さらには、誤った服用方法によって入院するレベルの副作用が起こったとしても、「副作用被害救済制度」の対象とならないのです。
副作用被害救済制度とは、医薬品を正しく使用したのに入院治療が必要になるほどの健康被害が出たときに給付を受けられるものを指します。多めに飲むなど誤った方法によって健康被害が出たとしても、副作用被害救済制度は対象外となるので注意しましょう。
市販薬は、必ず正しい方法で服用してください。多めに飲むのは絶対に止めましょう。
市販薬の正しい服用方法は、必ずパッケージに記載されています。用法用量を守れば、多めに飲んでしまうようなことにはなりません。何歳から服用できるのか、1日何回飲めばいいのか、1回あたり何錠いるのかなど、用法用量をしっかり確認して誤りがないことをチェックしてから服用しましょう。
もしパッケージを捨ててしまって用法用量がわからないときは、メーカーのホームページを確認するか、電話で問い合わせてみてください。もっとも簡単なのは、ホームページを確認する方法でしょう。多くの市販薬はホームページにも用法用量の記載がされています。
用法用量を守って服用しなければいけないのは、多めに飲むことで副作用のリスクが大きく上がるためです。市販薬に限らず、薬は正しく服用しても健康被害が出ることがあります。平成21~25年度と少し古いデータですが、ここで消費者庁が公表している市販薬の副作用について見てみましょう。
薬の種類 | 症例数 | うち死亡例数 | うち後遺症が残った症例数 | 副作用名 |
---|---|---|---|---|
風邪薬(総合感冒薬) | 400 | 8 | 9 | 中毒性表皮壊死融解症、間質性疾患、スティーブンス・ジョンソン症候群、肝障害、肝壊死、急性汎発性発疹性膿疱症、尿細管間質性腎炎、腎障害、心不全 |
解熱鎮痛剤 | 279 | 3 | 2 | 喘息発作重積、呼吸障害、心室性頻脈、意識変容状態、皮膚粘膜眼症候群、小脳性運動失調 |
漢方製剤 | 134 | 1 | ― | 間質性肺疾患 |
禁煙補助剤 | 72 | ― | ― | ― |
耳鼻科用剤 | 39 | ― | ― | ― |
下剤、浣腸剤 | 28 | ― | ― | ― |
その他の生薬および | 25 | ― | ― | ― |
鎮咳去痰剤 | 24 | 2 | ― | 劇症肝炎、心室性頻脈、意識変容状態 |
その他 | 224 | 1 | 4 | 薬物性肝障害、糸球体腎炎、歯槽骨炎、網膜剥離、肺塞栓症 |
総計 | 1,225 | 15 | 15 | ― |
上記の報告は、市販薬を正しく使用したのに副作用が出た方ももちろん含まれています。用法用量を守っても健康被害が出るリスクはゼロではありません。健康被害が起こるのはまれではあるものの、用法用量はきちんと守って服用してください。
うっかり市販薬を多めに飲んでしまう方もいれば、なかにはわざと用法用量を無視して飲んでいる方もいます。いわゆるオーバードーズにハマってしまうのはどういった理由があるからなのでしょうか。
オーバードーズは、「快感を得たい」という理由でよく行われます。初めのうちは興味本位で始めた方でも、快感にハマって抜け出せなくなる方も少なくありません。非日常の快感が得られることから、オーバードーズをやめられなくなってしまうのです。
「悩みを解決したい」「つらい気持ちを紛らわせたい」という気持ちからオーバードーズに走る方もいます。市販薬を飲んでいる間は現実から離れられるため、気持ちが楽になるのでしょう。
本来なら悩みやつらい気持ちを誰かに相談して解決できるのが一番です。しかし、そういった方法ができない方は市販薬に頼ってしまうケースがあります。
SNSで検索してみるとわかりますが、「今日は20錠いきます」「30錠いきます」などの投稿が散見されます。このような投稿をすると仲間から反応が貰えることもあり、ネットで居場所を探そうとしている方もいるのです。
ネットでは、簡単にオーバードーズをしている仲間が見つかります。「大丈夫」と声をかけられることで自分が認められたと感じる方もいるでしょう。
市販薬を多めに飲んだ後、嘔吐したり意識がなくなったりしている場合はすぐに医療機関を受診してください。その際は次の項目を医師に伝えると対応がスムーズになります。
医療機関では、多めに飲んだ薬をすぐに体の外へ出せるような対処をしてもらえます。
自分ではなく、周りにいる方が市販薬を多めに飲んでいることもあるでしょう。多めに飲んでいることがわかったら、次のような対処をするのが望ましいと考えられます。
なぜ市販薬を多めに飲んでしまうのか、その気持ちに寄り添いましょう。つらいことがあるのか、何か不安があるのか、少しでも話してもらえればその方の気持ちは多少なりとも楽になるはずです。無理に問い正そうとはせず、気持ちに寄り添いながら話を聞いてみてください。
市販薬を多めに飲んでいることがわかったら、専門機関に迷わず相談するのがもっとも良い方法です。全国にある精神保健福祉センターに相談をすることで、適切な支援が受けられます。本人が専門機関に行きたがらない場合は、家族や友人などが代わりに行っても構いません。
市販薬を多めに飲むと、オーバードーズにつながったり副作用のリスクが高まったりする恐れがあります。多めに飲んでも効果が高まったり症状が早く治ったりすることは決してないため、必ず用法用量を守って服用してください。市販薬は正しく服用しても副作用が起こる可能性があるものです。正しい服用を心がけましょう。
薬剤師としてドラッグストアで働いていくなかで「このままではいけない」と日に日に強く思うようになっていきました。なぜなら「市販薬を正しく選べている方があまりに少なすぎる」と感じたからです。
「本当はもっと適した薬があるのに…」
「合う薬を選べれば、症状はきっと楽になるはずなのに…」
こんなことを思わずにはいられないくらい、CMやパッケージの印象だけで薬を選ばれている方がほとんどでした。
市販薬を買いに来られる方のなかには「病院に行くのが気まずいから市販薬で済ませたい」と思われている方もいるでしょう。かつての私もそうでした。親にも誰にも知られたくないから市販薬に頼る。でもどれを買ったらいいかわからない。
そんな方たちの助けになりたいと思い、WEBで情報を発信するようになりました。この症状にはどの市販薬がいいのか、どんな症状があったら病院に行くべきなのか、記事を通して少しでも参考にしていただけたら幸いです。
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