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あなたのご両親は大丈夫?サルコペニアとは

2022/10/19

サルコペニアとは、ご高齢の方の筋肉が減少することを指し、転倒しやすく介護が必要になる前段階と捉えられるため、超高齢化社会の日本では非常に重要な疾患です。

お元気に生活を楽しむおじいちゃん、おばあちゃんを見かけることも多い現代ですが、一方では介護や治療を必要とする方の人数が増えることで医療費が増大するため、健康寿命の延伸は社会的な課題となっています。サルコペニアは健康寿命のキーワードともいえる疾患です。

65歳以上の方はもちろん、ご両親がその年齢にあたる方、身の回りに高齢の方がいる人は、ぜひサルコペニアについて知っておいてください。

サルコペニアとは

サルコペニアとは、「高齢期にみられる骨格筋量の減少と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下」と定義されています。つまり年齢とともに力が弱くなり、歩く速さが遅くなる状態、ということになります。

それだけ聞くと、「それって病気?」と思うかもしれません。年齢を重ねれば力が弱くなるのは当然では、という気もしますよね。ところが、当然と思っていたその状態が、実は要介護となる一歩手前の危険な状態であるということが徐々に分かってきたのです。

そのため、2016年10月には「国際疾病分類」というものに「サルコペニア」が登録され、病気ととらえましょう、ということになったわけです。

サルコペニアの診断は歩行速度、握力、筋肉量の測定によってなされます。歩行速度は秒速0.8m以下、握力は男性で26kg以下、女性で18kg以下の時に筋力が低下していると判断されます。筋力低下の方を対象にBIA、またはDXAという方法で筋肉量を測定し、一定の値を下回ると、サルコペニアと診断されます。

サルコペニアに該当する方は65歳以上の方の15%程度と考えられており1)、500万人ほどいるとされています。特に症状がなく通常の生活を送ることができている方も多いため、自覚することは少なく、また周囲からも気づかれない可能性があります。そのため対策が遅れ、転倒などをきっかけに要介護となってしまうのです。

サルコペニア、フレイル、ロコモティブシンドローム

サルコペニアと似た用語に「フレイル」と「ロコモティブシンドローム」があります。どちらも耳にしたことがあるかもしれません。

フレイルとは「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」のことであり、筋力が低下する「身体的フレイル」に加えて認知面の問題である「認知的フレイル」、社会的な支援が得づらいため予備能力が低下している「社会的フレイル」と、広い概念を指した用語です。サルコペニアは身体的フレイルに近い概念であり、フレイルの一部であると見ることもできます。

ロコモティブシンドロームとは、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」のことです。運動器の障害には筋力や体力の低下も含むため、身体的フレイルやサルコペニアと同様の概念を含みますが、ロコモティブシンドロームでは骨折や腰痛、関節の変形なども含む点が異なります。

いずれの考え方も健康寿命を延ばし、介護を予防するために重要であり、早急な対策が望まれます。

簡単にチェックしてみよう。サルコペニアのテスト

「最近歩くのが遅くなった(信号が青のうちに横断歩道を渡りきれない)」「手すりにつかまらないと階段を上がれない」「ペットボトルのキャップを開けにくくなった」などの変化を感じている場合は、サルコペニアかもしれません。

筋力や体力を見るには、次のような方法があります。

握力

握力計があれば、測定することができます。男性では26kg以下、女性では18kg以下がサルコペニアを疑う一つの目安になります。

歩行速度

秒速0.8m以下が一つの目安になります。4mの距離を歩行して、5秒以上かかる場合にはサルコペニアが疑われます。

指輪っかテスト

いすに座り、両足を床につけます。そこで前かがみになり、自分のふくらはぎの一番太いところを両手の親指と人差し指で囲みます。指がつかずにふくらはぎを囲めない場合はほぼ心配ありませんが、ふくらはぎが細くなり指で容易に囲めてしまう場合は要注意です。

開眼片脚立位テスト

両手を腰にあて、片足を床から5cmほど上げて立っていられる時間を測ります。8秒以上立っていられない場合はサルコペニアが疑われます。

5回立ち座りテスト

椅子からの立ち座りを5回繰り返すのに要した時間を測定します。椅子の高さは座った時に膝が90度くらいになるのが目安です。10秒以上かかる場合には要注意です。

筋肉は何歳になっても鍛えられる。サルコペニアの方におすすめの運動とは

運動が身体機能の向上に役立つことは数多くの研究で示されており、サルコペニア対策の中心となる治療法です。「サルコペニア診療ガイドライン2017」でも、「運動習慣ならびに豊富な身体活動量はサルコペニアの発症を予防する可能性があり、運動ならびに活動的な生活を推奨する2)」と明記されています。

運動の方法としては従来からレジスタンス運動(ある程度の負荷をかける、筋力トレーニングのイメージ)が推奨されており効果が確認されていますが、近年では負荷の少ない運動(有酸素運動に近くなるイメージ)でも、時間と頻度を確保することで十分な効果が得られることが分かってきました3)

特に運動習慣のない方では効果が出やすいことが分かっており、有用な予防法となります。ただし習慣のない方ほど運動を継続するのが難しく、安全確保が必要です。周囲のサポートがより重要になると言えるでしょう。

運動の効果を十分に得るためには、栄養をしっかりとる必要があります。筋力を維持向上するためにはたんぱく質が特に重要で、体重1kgあたり1日1~1.3g程度のたんぱく質摂取が必要です4)。体重が50kgの方であれば60g程度となり、鶏もも肉でいえば約240g、豆腐でいえば約3丁となります。3食で食べきれない場合には、それ以上に分けて食べる、またはサプリメントを利用するといった方法も効果的です。高齢の方では歯の問題で食事量が減少しているケースも多いため、口腔ケアも重要となります。

サルコペニアの方は骨折に注意

年齢とともに発症率が増加するサルコペニアですが、同じく年齢を重ねると増えるのが、骨粗鬆症です。サルコペニアである方は同時に骨粗鬆症であるケースも多く、注意が必要です。

サルコペニアになる原因は年齢だけではなく、低栄養や身体活動の低下、栄養の中でもビタミンDの不足、成長ホルモンや性ホルモンの減少などが指摘されていますが、実はこれらは同時に骨粗鬆症を誘発する要因でもあるのです。

骨粗鬆症の患者さんは転倒などちょっとしたきっかけで骨折してしまい、生活能力が大きく落ちてしまうことが少なくありません。介護が必要になった要因として「骨折・転倒」は脳血管疾患や認知症に次いで多く、全体の12.2%を占めています。

サルコペニア対策である運動や栄養は、同時に骨粗鬆症対策にもなります。

骨粗鬆症について詳しく知りたい方は、ぜひ次のコラムをご覧ください。

まとめ

うちのおばあちゃんはまだ元気だから大丈夫、と考えている皆さん。サルコペニアは早いうちに気づき、運動や栄養だけでなく、生活環境を整え家族で協力することで改善する可能性のある疾患です。簡易なチェックで疑わしい場合には、ぜひ近隣の医療機関で相談してみることをおすすめします。

1) 「サルコペニアとは」公益財団法人長寿科学振興財団ホームページ
2) サルコペニア診療ガイドライン2017
3) 「高齢患者のサルコペニア・フレイルと運動療法」プラクティス36(4), 2019
4) 「栄養からみたサルコペニア・フレイル予防対策」臨床栄養134(5), 2019

コラムニスト

  現役医師医療ライター Dr.Ma 

患者さんやご家族が病状や治療について十分に理解し、医療職と協力しながら本人にとって最善の治療を選択していくこの時代。
医師も積極的に正しい情報発信をするべきと考え、医療ライターとして活動しています。

「よく分からないけど、お医者さんの言うことだから聞いておけば安心。」
「医者の言うことは、難しくて分かんね。」

そんな思いを抱えながら治療を受けることも多いでしょう。
しかし医療に絶対はありません。
どのような治療結果になったとしても、そのプロセスや治療内容を理解することで次に進むことができます。

医療の進歩はめざましく、施設によって方針が異なる場合もあります。
記事を参考にして、主治医とよく相談し後悔のない治療を受けてほしいと願っています。

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