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かかとの痛みが中々とれない・・足底腱膜炎とは

2022/06/27

足の裏のかかとが痛くなる、足底腱膜炎。

陸上の中長距離ランナーに起こることが多いことで知られていますが、ジョギング愛好者や立ち仕事が長い方など、多くの方が悩む疾患の一つです。

痛みの場所が特徴的なので、自身でも対策を取りやすい疾患です。一方で慢性的になると難治性になる疾患でもあります。早いうちに対応できるよう、基礎知識を学んでいきましょう!

足底腱膜ってなに?足底筋膜との違いは?

足底腱膜というのは、足の裏のかかと部分から足の指までつながる膜のことです。非常に強い組織で構成されていて、私たちの足の裏を支えてくれる大事な構造です。

足の指を反らすようにすると土踏まずのあたりに硬い繊維状の組織を触れることができます。それが足底腱膜です。

同じ組織のことを、足底筋膜と呼ぶことがあります。理由は英語名に由来していて、この組織を英語ではplantar fasciaといいます。「plantar」は「足底」でいいのですが、「fascia」は時と場合により「腱膜」とも「筋膜」とも訳されるため、両方の用語が混在しています。

混乱の元となるため、日本足の外科学会ではこの組織を「足底腱膜」、足底腱膜がかかとの骨につく部分で痛みを起こす疾患を「足底腱膜炎」とすることを決定しています。

足底腱膜炎は10人に1人がかかる疾患です。なりやすい人とは

足底腱膜炎はありふれた疾患で、米国では国民の約10%が一度は経験すると報告されています。特にアスリートでは数字が高くなり、8-21%という報告があります。

足底腱膜は、足の指を反らした時に引き伸ばされ緊張することで、足のアーチを高くして力を発揮しやすくする効果を持ちます。また、足の裏を支えることで歩行やランニングの衝撃を和らげる役割があります。

足底腱膜に過剰な負担がかかると、かかとの骨に付着する部分で損傷や炎症が起こり、足底腱膜炎が発生する原因となります。

足底腱膜炎になりやすい要因には、その人がもつ要素と、環境要因があります。

足底腱膜炎になりやすい人の特徴

足底腱膜は足のアーチを支える構造であるため、もともと足の構造のバランスが良くない場合に足底腱膜炎が起こりやすくなります。代表的なものが扁平足で、足底腱膜に引っ張られる力がかかりやすいため発症の原因になります。逆にアーチが特に高い(凹足といいます)方も足の柔軟性が乏しく痛みを起こしやすいとされています。

そのほか肥満の方や、何らかの原因で左右の脚の長さに違いがある方は発症のリスクが高くなります。

足底腱膜炎になりやすい環境とは

足底腱膜には歩行やランニングの負担がかかります。足底腱膜炎が発症しやすいのは使いすぎになりがちな環境です。

足に強い負担がかかるアスリート、特に中長距離競技者、またランニング愛好家や長時間の立ち仕事などがリスク要因となります。

また、靴も重要です。足に合っている靴であれば土踏まずを支えて、衝撃を吸収してくれる効果を期待できますが、足に合わない靴やクッション性の低い靴を使用していると足底腱膜に負担がかかります。

足底腱膜炎のセルフチェック。こんな人は要注意

足底腱膜炎は痛みがでる場所が特徴的です。足の裏のかかと部分、少し内側のあたりです。足の指を反らすと土踏まずのあたりで足底腱膜を確認できるので、それをかかとのところまで追っていくとわかりやすいと思います。そこが足底腱膜のかかとの骨に付く場所で、押されたり歩いたりした時に痛い場合は、足底腱膜炎の可能性が高いといえます。

特に普段からジョギングをする方や、長時間の立ち仕事をする方で痛みが出た場合は、さらに可能性が高くなります。

足底腱膜炎を起こしやすい扁平足や凹足は、立っている状態で土踏まずの状態を確認することでチェックすることができます。土踏まずがベッタリと地面についている場合は扁平足、土踏まずが全く地面に接しないくらい浮き上がっている場合は凹足の可能性があります。今は症状が出ていなくても、負担がかかると痛みがでる可能性があるため、要注意です。

足底腱膜炎が疑われる人におすすめの対処法。運動療法、靴選び

自分が足底腱膜炎かな?と思った方は、もし思い当たる原因(最近走りすぎた、負担をかけすぎたなど)がある場合は可能な範囲で安静にすることで症状が改善する可能性があります。

ただし一時的に痛みが良くなったとしても、根本的な原因が解決されていない場合再発するケースが多くなります。足底腱膜炎の第一選択となる治療は運動療法です。アキレス腱や足、足底腱膜のストレッチを行うことで柔軟性を取り戻し、足底腱膜に負担がかかりすぎないようにします。

アキレス腱のストレッチは皆さんご存知の通り、立った状態で足を前後に開き、後ろの膝を伸ばして、足の裏をつけるようにして伸ばす運動です。同じ姿勢から後ろの膝を地面につきながら深く曲げて、足はつま先立ちのような形にして体重をかけると、足の指を反らす運動となり足や足底腱膜を伸ばすことができます。

これらの運動を1箇所につき30秒×4回(合計2分間)、1日1-3回行うことが勧められています。

靴選びも重要です。扁平足の方は実際の足の長さよりも大きいサイズを選びがちです。すると正しく足のサポートを得ることができないため、足底腱膜に負担がかかります。適切なサイズでクッション性のある靴を選び、土踏まずを持ち上げるようなインソールを使用することで足の負担を減らすことができます。

足底腱膜炎を放置するとどうなる?

足底腱膜炎は運動療法などを行い経過観察することで、80-90%の方は症状が良くなることが知られています。ただし痛みがあるにも関わらず負担をかけ続けると、痛みが慢性的になります。

足底腱膜炎は、以前は炎症が主な病態だと考えられていました。炎症というのは、おさまれば元通りに治るという意味を含んでいますので、炎症が少し続いても後から落ち着けば問題ないということになります。

しかし、痛みがなかなかとれない難治性の方についての研究が進むにつれ、病態は炎症というよりも変性という側面が大きいということが分かってきました。変性というのは、文字通り組織が変わり、性質が劣化してしまうことをいいます。そうなると時間が経ってから治療しても元通りにならず、いつまでも続く痛みになってしまうのです。

痛みがでているということは体からSOSのサインが発せられているということです。早いうちの適切な対処が重要です。

病院で行う足底腱膜炎の治療

病院では痛みの場所などから足底腱膜炎と考えられた場合、超音波検査やレントゲン検査を行います。足底腱膜炎では足底腱膜の肥厚や、かかとの骨の骨棘(こつきょく、ほねのとげ)が見られる可能性があります。

診断がついた場合の治療は、まずは運動療法です。医師や理学療法士から運動の指導を行い、患者さん自身で行います。足の骨のバランスや形を評価し、必要があれば足につける装具を作成します。土踏まずを支える、かかとの衝撃をやわらげるといった目的で使用されます。

その他症状が強い場合には飲み薬や湿布などの薬、ケースによって注射が行われることがあります。

症状が長期間持続し治療が難しい場合に、体外衝撃波(足底腱膜がかかとの骨につくところに衝撃波を与えて治癒反応を促す)や手術が選択されることがあります。

まとめ

足底腱膜炎について、解説しました。

それほど痛くないし様子を見ようかな、と考えがちの疾患です。早期に対応すればそれほど大変ではありませんが、難治性になるとやっかいです。痛みの場所が特徴的であるだけに、自分で気付くのはそれほど難しくないはず。早めの対応を心がけましょう。

運動療法や靴選びに自信がない場合は、最寄りのクリニックや病院へ早めにご相談するのをおすすめします。

1) 「足底腱膜炎の用語、疫学、病態」MB Orthop 31(9), 2018
2) 「足底腱膜炎の痛み診療」MB Orthop 34(12), 2021

コラムニスト

  現役医師医療ライター Dr.Ma 

患者さんやご家族が病状や治療について十分に理解し、医療職と協力しながら本人にとって最善の治療を選択していくこの時代。
医師も積極的に正しい情報発信をするべきと考え、医療ライターとして活動しています。

「よく分からないけど、お医者さんの言うことだから聞いておけば安心。」
「医者の言うことは、難しくて分かんね。」

そんな思いを抱えながら治療を受けることも多いでしょう。
しかし医療に絶対はありません。
どのような治療結果になったとしても、そのプロセスや治療内容を理解することで次に進むことができます。

医療の進歩はめざましく、施設によって方針が異なる場合もあります。
記事を参考にして、主治医とよく相談し後悔のない治療を受けてほしいと願っています。

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