
アトピー性皮膚炎の治療の中心はもちろん“塗り薬”です。中でも“ステロイド外用薬”と“保湿剤”の2つを上手く使って治療していきます。
今回は、ステロイド外用薬について説明します。ステロイド外用薬は、その成分と有効性によってI群(最も強い)からV群(弱い)まで5つのグループに分けられています。
作用の強さ | ー般名 | 代表的な製品 |
---|---|---|
最も強い Ⅰ群 |
クロベタゾールプロピオン酸エステル ジフロラゾン酢酸エステル |
デルモベート ジフラール |
とても強い Ⅱ群 |
モメタゾンフランカルボン酸エステル 酪酸プロピオン酸ベタメタゾン |
フルメタ アンテベート |
強い Ⅲ群 |
デキサメタゾン吉草酸エステル ベタメタゾン吉草酸エステル フルオシノロンアセトニド |
ボアラ リンデロンV フルコート |
普通 Ⅳ群 |
プレドニゾロン吉単酸エステルエステル クロベタゾン酪酸エステル ヒドロコルチゾン部酸エステル |
リドメックス キンダベート ロコイド |
弱い Ⅴ群 |
プレドニゾロン | プレドニゾロン |
基本的には、重症の湿疹には強い〜最も強いランクを、軽症の部分には普通のランクを使うことになります。ただし、使用にあたっては皮膚の部位によりステロイド外用薬の吸収率が異なるため、次に述べる副作用に注意して使用します。この辺りの外用薬の選択や使い方については皮膚科医におまかせ下さい。
副作用は?
患者さんから、「ステロイド外用薬は使って大丈夫でしょうか?」と質問を受けることがあります。ステロイド外用薬は適切に使用すれば、全身的な副作用が出ることはほぼありません。一方でステロイド内服薬は、長期使用により全身的な副作用(顔が丸くなる、コレステロール上昇、糖尿病、骨粗鬆症など)に注意が必要です。内服薬により出現する副作用はわかっているので、きちんと対策する必要があります。
もちろん、外用薬の皮膚への副作用もまったくない訳ではなく、
- 皮膚の菲薄化(ひはくか:皮膚の毛細血管が浮いたような感じ)
- ニキビが増える可能性がある
などがありますが、どちらも長期間使用した場合に出てきます。
ときどき、この内服薬と外用薬の副作用がごちゃごちゃになって、「ステロイド外用薬は怖い薬だから使いたくない!」と感じておられる患者さんもおられますが、きちんと区別して考える必要があります。
塗り薬に関する、よく質問を受けることをQ&Aにまとめました。
塗り薬に関する良く質問
Q)ステロイド外用薬は一度使うとやめられない?
A)適切に使用すれば、湿疹の改善とともに減量・中止することができます。
ステロイド外用薬を止めると、湿疹がぶり返すことがあります。それは、皮膚の状態が一見よくても、アトピー性皮膚炎では皮膚の下で炎症が残っていることがあるからです。そのような状態で外用薬を止めると、悪化することがあるので注意が必要です。そのため、湿疹をでない状態を維持しながら、少しずつステロイド外用薬の使用する間隔を空けていき、減量さらには中止するようにします。
Q)ステロイド外用薬を塗ると肌が黒くなる?
A)肌が黒くなることはありません。
皮膚炎が長く続くと、炎症のため黒く色素沈着が起こります。ステロイド外用薬の治療により、皮膚炎がよくなることで(=赤みがひく)、見えていなかった色素沈着がわかってきます。あたかも塗り薬で黒くなったように感じますが、実際には薬で黒くなる訳ではありません。色素沈着が残らないためにも、適切に外用薬を使って、炎症を短期間に治療することが大切になります。
塗り薬の上手な使い方
多くの患者さんを診察していて、外用薬の塗り方は人それぞれ違うと感じることがあります。患者さんの使い方を思い返しても、
- 指に少し薬を出して患部に擦り込むように塗る
- 患部にピンポイントにチョンと薬をつける
- たっぷりと薬を手のひらにとり、全体に塗る
これくらいの違いはあるように思います。皮膚科でオススメしている塗り方は “3.”です。たっぷりの目安としては、1関節分の塗り薬量で手のひら2枚分塗れる、といったところです。
ただ、塗り方は文字で書いてもわかりにくいので、実際に塗り方のデモンストレーションを行って、患者さんに実感してもらうことが良いと思います。皮膚科の診察室で塗り方指導をしていると、「こんなに使うのですか!?」という声をしばしば聞きます。アトピー性皮膚炎に治療では、きちんと塗り薬を使うことが大切になってくるので、“塗り方”はとても大切です。当たり前のことですが、“塗り薬は塗らないと効果が出ません”、ということです。(アトピー性皮膚炎の治療の詳細は次回に続きます)
簡単にまとめると、ステロイド外用薬の副作用を正しく知り、適切な量を使用し、湿疹を早く治す!、これが外用薬を上手に使うポイントになります。
コラムニスト紹介


岩本皮ふ科アレルギー科 院長 岩本 和真
当クリニックでは、湿疹、水虫をはじめ、乾癬(かんせん)、やけど、皮膚ガンなど幅広い皮膚科診療を行っております。専門は、アトピー性皮膚炎、じんま疹などのアレルギー性皮膚疾患で、ドイツBonn大学ではアトピー性皮膚炎の世界的リーダーであるThomas Bieber教授のもとで研鑽をつんで参りました。また、広島大学病院では血管性浮腫をはじめ遺伝性血管性浮腫という難病の診療にも携わってきました。
これらの経験を生かし、丁寧な説明と適切な治療を心がけ、地域の皆様のお役に立てる皮ふ科クリニックとして診療いたします。ちょっとした皮膚の気になることを、お気軽にご相談ください。
【経歴・資格・所属学会】
【略歴】
修道中学・高校卒業
2004年 広島大学医学部卒業
2004年 JA広島総合病院(研修医)
2006年 広島大学病院皮膚科
2012年 ドイツBonn大学皮膚科
2015年 広島大学病院皮膚科
2020年 岩本皮ふ科アレルギー科
(※1983年設立「岩本医院」を承継・名称変更)
【資格】
日本皮膚科学会認定 皮膚科専門医
日本アレルギー学会認定 アレルギー専門医
医学博士
難病指定医・小児慢性特定疾病指定医
【所属学会】
日本皮膚科学会
日本アレルギー学会
日本臨床皮膚科学会
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