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卵巣がん | 症状から調べる | ファミリードクター

卵巣がん

卵巣がんは、卵巣に発生したがん(悪性腫瘍)です。

卵巣腫瘍全体は表1のように、組織学的(顕微鏡でみた形態)に上皮性・性索間質細胞性・胚細胞性などに大別され、それぞれが良性・境界悪性・悪性の悪性度に分類される、極めて多岐にわたる腫瘍群であり、卵巣がんはその中にあります。

卵巣と言う臓器は、骨盤内側に位置する子宮の両端にある臓器で、大きさは親指くらいです。卵子の生成や排卵、女性ホルモンの分泌等を行います。また、骨盤の奥にある内分泌臓器のため、外から見たり触れたりしても異変に気付くことが難しく、痛みも感じ難い臓器です。しかし腹腔内にあるため、がんの場合は早くから他臓器に転移・播種を来します。

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卵巣がんの原因

悪性卵巣腫瘍の発生頻度は、全女性性器悪性腫瘍の約15%とされます。本邦における罹患数・死亡数はともに増加傾向にあり、2013年の推定罹患数は9,804例、2016年の推定死亡数は4,758例と報告されています。女性性器悪性腫瘍の中では最も死亡者数が多いものです。

上皮性腫瘍は、悪性卵巣腫瘍の90%以上を占める組織型です。発症年齢は60歳代にピークを迎え、約40~50%の症例がⅢ・Ⅳ期と考えられます。腹膜播種やリンパ行性転移が主で,血行性転移は少ない.2010年に治療が開始された悪性上皮性腫瘍の5年生存率はⅠ期が89%、Ⅱ期が80%、Ⅲ期が46%、Ⅳ期が36%であり、組織型別では漿液性癌の予後が最も不良でした。(FIGO 1988での登録)

リスクを上昇させるものとしては、未産、肥満、エストロゲン単独のホルモン補充療法などが報告されています。逆にリスクを低下させる因子として経口避妊薬の使用があります。遺伝的因子としては,有名な遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and ovarian cancer;HBOC)におけるBRCA1/2変異とリンチ症候群が挙げられます。

卵巣がんの症状

自覚症状に乏しく、早期発見が困難な腫瘍です。無症状のうちに進行している場合が多いです。初発症状として、腹部腫瘤や腹部膨満感、これに伴う周囲臓器への圧迫症状、排便・排尿障害、腹痛、摂食困難、月経不順や不正性器出血を主訴として受診することもあります。完全に確立された検診法(スクリーニング検査)はありません。

卵巣がんの診断・治療

FIGO分類(2014)に準拠し,本邦でも2015年に新しい取扱い規約が発刊されました。手術進行期分類(表1)ならびに進行期分類にあたっての注意事項(表2)を表に示します。

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診断

内診

腟から指を挿入し、双手診により卵巣や子宮の状態を確認します。付属器腫瘤が小さい場合には内診で触知することが困難なので注意を要します。視診、触診で腹水貯留の有無、鼠径リンパ節や鎖骨上リンパ節の腫大についても確認します。

経腟超音波検査

経腟超音波断層法は、最も簡便に行える画像検査であり、腫瘤の有無のスクリーニングに有用です。付属器腫瘤を認めた場合は、腫瘍の大きさ、性状を評価します。

画像診断

CTはX線、MRIは磁気で体内の様子を連続画像で映し出し、腫瘍の状態や広がり等を観察します。骨盤内病変の評価にはMRI検査を、腹腔内の播種やリンパ節転移・遠隔転移の評価にはCTを施行します。FDG-PET/CTは悪性の部位をSUVmax値の集積で表します。微細な転移、播種の検出に有利です。

治療

悪性卵巣腫瘍の治療法は、手術療法を基本とした集学的治療であり、主に化学療法が併用されます。手術療法および化学療法の選択は、進行期・組織型・組織学的異型度など予後を左右する因子と、年齢・合併症・挙児希望など臨床学的事項を総合的に判断して行われます。卵巣がん治療ガイドライン(2020年版)に従い治療法を勘案します。

手術療法

原則としてまず行う行うべき初回治療は,手術療法です。手術療法の目的としては、①卵巣腫瘍の確定診断を行い、悪性腫瘍であれば組織型と手術進行期(いわゆる進行期)の確定を行うこと(staging laparotomy)、②初回治療として最大限の腫瘍減量を行うこと(primary debulking surgery;PDS)、③予後因子に関わる情報を得ることです。このための基本術式として,両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術に加えて、進行期決定のために腹腔細胞診+骨盤・傍大動脈リンパ節郭清(生検)+腹腔内各所の生検が奨められています。さらに進行例に対しては、可能な限り腫瘍摘出を行い、腫瘍減量を図ることが基本となります。

手術の完遂度は治療因子の中でも特に重要な予後因子となります。とりわけ進行例においては術後の残存腫瘍径は予後と相関するとされ、PDSによって最大残存腫瘍径1cm未満にできた場合(optimal surgery)は、1cm以上の場合(suboptimal surgery)よりも予後が改善するといわれています。さらに肉眼的残存腫瘍のないcomplete surgeryにできた場合は、より有意に予後が改善することが示されています。そのためには、腹膜や横隔膜、腸管、脾臓などの合併切除も考慮する必要があります。

初回手術でoptimal surgeryが不可能と予想される症例、合併症や高齢、腹水・胸水貯留などにより全身状態不良で初回手術が安全もしくは十分に行えない症例に対しては、術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)を行った上で手術(interval debulking surgery;IDS)も選択肢の一つとなり得えます。

術前評価や術中所見で良悪性の推定や術式決定が困難な場合は、術中迅速病理組織学的診断が治療方針を決定する上で重要になります。ただし、時間的制約がある中での正確な診断は非常に難しく、正診率(最終診断との一致率)は100%ではないことを注意すべきです。術中迅速病理検査で悪性腫瘍と確定し得ず手術を終了し術後に悪性腫瘍と判明した症例に対しては、再開腹によるstaging laparotomyの施行が推奨されています。

化学療法

Staging laparotomyによって確定した進行期ⅠA,ⅠB期かつ組織異型度grade1(明確な基準はないが、低異型度漿液性癌・類内膜癌grade1・粘液性癌を意味することが多い)に対しては経過観察が可能であるが、それ以外は術後化学療法(adjuvant chemotherapy)の追加が必要となります。現在標準とされるのは,タキサン製剤とプラチナ製剤の併用療法です。

TC療法(conventional TC療法)は、パクリタキセル+カルボプラチンを3週ごとに静脈内投与し、6サイクルを目標とする治療であり、現在の悪性上皮性卵巣腫瘍の国際標準治療となっています。dose-dense TC療法は、パクリタキセルを毎週+カルボプラチンを3週ごとに静脈内投与する方法であり、TC療法と比較し奏効率に差はなく、無増悪生存期間および全生存期間ともに延長させたとの本邦の臨床試験(JGOG3016)結果から、本邦において標準治療の一つ考えられています。DC療法(ドセタキセル75+カルボプラチン、3週ごと)も奏効率、無病生存期間ともにTC療法と有意差はないとの臨床試験結果から、パクリタキセルによる末梢神経障害の合併症が危惧される症例やアルコール不耐例などに対して、選択肢となり得ます。

そのほかⅢ・Ⅳ期症例では,プラチナ製剤を含む化学療法に分子標的治療薬であるベバシズマブの併用・維持療法を行うことが奨められています。TC療法でのカルボプラチンの腹腔内化学療法には、従来のTC療法をしのぐ予後改善効果を示しています。

分子標的療法

最新では分子標的治療薬の有効性が示されており、従来の化学療法に加えたベバシズマブの併用・維持療法や、BRCA1/2変異を有するプラチナ製剤感受性再発症例に対するプラチナ製剤を含む化学療法奏効後のオラパリブの維持療法などが奨められていて、これは日進月歩の状態で、主治医は最新の治療につき常に患者さんへの情報提供が必須です。

再発治療

再発の多くは治療後2年以内が多く、半数以上が再発してしまいます。再発後は根治が困難であることから治療の目的は初回治療と異なり、生存期間の延長およびQOLの改善や症状緩和となります。主たる治療法は化学療法であり、前回化学療法終了後から再発までの期間(disease free interval;DFI)と化学療法の奏効率は相関することが知られています。

DFIが6か月以上の再発は、プラチナ製剤感受性と判断してプラチナ製剤を含む多剤併用療法が選択されます。パクリタキセル+カルボプラチン(TC)療法、ゲムシタビン+カルボプラチン(GC)療法、リポソーム化ドキソルビシン+カルボプラチン(PLD-C)療法、などで有効性が示されています。再発腫瘍摘出が可能と考えられる症例にはsecondary debulking surgery(SDS)が有効な場合があるものの、その適応決定は慎重を期す必要があります。

DFIが6か月未満の再発は、プラチナ製剤抵抗性と判断し、初回治療と交差耐性のないものを選択するとともに、毒性を考慮して単剤治療が奨められますが、予後は限定的で厳しいものです。

卵巣がんの予防法

広く転移しやすい播種という広がりかたをするため、早期発見が完治の決め手です。特に卵巣がんが増える40歳頃からは、不調がなくとも婦人科検診を習慣にしましょう。また、卵巣の負担を軽減する低容量ピルの服用や、適度な運動やバランスに取れた食事で健康な体を作ることが予防に繋がると考えられています。

この記事の監修

ひらた女性クリニック 院長平田 英司

みなさんこんにちは、ひらた女性クリニック院長の平田英司です。
長崎大学医学部を卒業し広島大学産科婦人科学教室に入局して以来、25年以上にわたり総合病院勤務医として婦人科腫瘍、産科、女性医学、不妊と産婦人科の四つの診療分野につき幅広く研鑽を積んで来ました。婦人科は広島県の代表的な婦人科腫瘍専門医として手術執刀を含め診療の中心的役割を担い、産科はNICU 設置病院に主に勤務し総合的周産期医療に従事してきました。
しかし、こと外来診療に関しては、仕方がないことですが、総合病院の外来はどこも効率優先から待ち時間が長く診療時間が短くなりがちで、病気や問題の本質にせまり難く、これがストレスになっていました。
患者さんも医師も納得する診療、とにかくていねいな診療、これを実現するべく自分のクリニックを開院させて頂く運びとなりました。一見軽微に思える症状でも、また症状がなくとも抱えた問題について気軽に相談でき、かつ専門的診療まで実施可能で、さらに広島市内県内のみならず全国の高次医療機関への紹介が可能な「究極のかかりつけ医」を目指します。
「どうせうまく治らない」「どうせわかってくれない」「女性医師でないからわからない」と思いつつでもいいから、気軽に受診して下さい。必ずや、あなたの問題を一緒に解決し、快方に向かわせられると思います。

【経歴・資格・所属学会】

【略歴】
広島県呉市出身、幼少期は福山市育ち
広島市立袋町小学校, 広島大学附属中・高等学校 出身
長崎大学医学部医学科 卒業
広島大学産科婦人科学教室 入局
以後、JA尾道総合病院、呉共済病院、公立御調病院、四国がんセンター、
広島大学病院(診療講師、統括医長、医局長)、東広島医療センター(医長)に着任

【資格】
医師免許
学位(甲、広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 外科系専攻)
日本産科婦人科学会専門医・指導医
婦人科腫瘍専門医
細胞診専門医
母体保護法指定医

【所属学会】
日本産科婦人科学会(専門医・指導医、役員(幹事)歴あり、代議員歴あり) 
日本婦人科腫瘍学会(婦人科腫瘍専門医、代議員歴あり)
日本臨床細胞学会(細胞診専門医)
日本周産期・新生児学会 
日本女性医学学会(旧更年期学会)
日本産科婦人科遺伝診療学会
日本エンドメトリオーシス学会(旧内膜症学会)
日本癌治療学会
日本癌学会

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