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産後うつ | 症状から調べる | ファミリードクター

産後うつ

産後うつは、「産褥精神障害」のなかでは最も多彩な病型があり、本邦では褥婦の5~10%にみられます。出産後2週~数か月で発症し、一日中続く抑うつ気分、あるいは一日中日常生活での興味や喜びを感じにくくなることが2週間以上持続し、育児や家事などの日常生活に支障を来した、こころの病気として定義されます。しかし産後2~4週ですでに発症する場合もあることから、この時期でのスクリーニングが推奨されています。

産後うつの原因

産後うつの原因は、出産後のホルモンバランスの乱れと、育児によるストレスと思われがちです。確かにこれらは誘因ですが、危険要因としては、パートナーからの暴力やハラスメント、妊娠期の不安状況、望まない妊娠などが挙げられています。何れにせよ、家族は変化に気付いたら、なるたけ早く分娩施設や、勇気をもって心療内科、精神科への相談が重症化を予防することになります。子育ての援助や共感は大事ですが、家族や身の回りの人々だけで治療したり予防したり、解決しようと頑張りすぎないことが重要です。

産後うつの症状

症状に関しては、まず一般的に、抑うつ気分、抑うつ状態、うつ病の区別が必要です。抑うつ気分とは、「悲しい」「暗い」などの単なる感情をいいます。抑うつ状態とは、抑うつ気分に加えて、不眠、食などの領域の様々な症状を含みます。しかし抑うつ状態にある患者さんが必ずしもうつ病の診断基準を満たすものではありません。うつ病の診断基準として国際的に認められているアメリカ精神医学会による「精神障害の診断と統計の手引き」(通称DSM)では、2週間以上の抑うつ状態の持続あるいは、興味や喜びの喪失のどちらかがあり、加えて著明な体重減少、食欲の減退・増加、不眠・過眠、精神運動焦燥・抑制、疲労感・気力の減退、無価値観・不適切な罪悪感、思考力の減退・判断困難・希死念慮のうち少なくとも5項目以上が確認できるものが診断基準です。DSMを基準とした産後うつ病の有病率は約5%とされています。

産後うつは、一般的に出産から1か月以内に発症します。しかし、産後1年を経過してから発症する危険性もあります。そのため、産後1か月以上が経過しても、産後うつの発症予防を心がけるようにしておきましょう。DSMを基にした産後うつの具体的な症状は、以下の通りです。

  • 抑うつ状態になる
  • 涙脆くなる
  • 眠れなくなる
  • 「自分はダメ親だ」「子どもが病気になったらどうしよう」等の不安を感じる
  • 感情の起伏が激しくなる
  • 悲しくなる
  • 怒りっぽくなる
  • 疲労感が増す
  • 食欲が低下する
  • 子どもに手を上げてしまいそうになる
  • 子どもを可愛く感じない 等

このような症状が2週間以上続いた場合は、決心して心療内科や精神科といった専門機関に相談しましょう。よく似た症状に「マタニティブルー」というものがありますが、マタニティブルーは産後3〜10日後に発症する生理現象です。妊婦の約3割がマタニティブルーを発症します。産後うつと違い、可逆性があり2週間程度で症状が治まります。しかし、マタニティブルーも精神的に辛いため、パートナーや両親、友人などに相談し、協力を求め、育児の負担軽減をするようにして下さい。

産後うつの診断、予防と治療

産後うつの診断

米国の精神疾患診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5:DSM-5)で確定診断します。最新の発症率は10~15%と言われます。精神面に問題を抱える女性は自ら支援を求めないという傾向があるため、エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)等を用いた医療側からの積極的なスクリーニングが重要です。EPDSによるスクリーニングの信頼性は、産後1か月が最も高く、日本では9点以上が陽性とされていますがその陽性的中率は50%(陰性的中率は98%)と決して高くないことに留意する必要があります。

産後うつの治療

軽度のうつ病に対しては、心理療法やカウンセリングが中心となります。中等度(育児や家事が困難)、もしくは重度うつ病の既往がある場合は,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:SSRI)をはじめとした抗うつ薬等による薬物療法をまず組み合わせます。

産後うつの予防

産後うつの危険要因には、パートナーからの暴力、妊娠期の不安症状、望まない妊娠などが挙げられます。予防的視点を持ち、背景にある要因にも関心を払うことは大変重要です。

また、児に対する愛情が持てない、嫌悪的感情を抱く「ボンディング障害」は、1990年代から取り上げられるようになり、産後の抑うつとある程度の相関があると認識されるようになりました。しかしボンディング障害がしばしばうつ症状を伴わずに起こること、元々うつとは原因論が異なること等から、両者は区別すべき概念である、という説もあり、未だ定まっていません。

予防のポイントは、育児でのストレスをできるだけ溜めないようにすることです。ストレスを溜めないようにするためには、パートナーの協力が必要不可欠です。また、両親や兄弟、各自治体にある子育てサポートの利用も助けとなり、産後うつの発症を防ぐことができるかもしれません。

産後うつの症状が軽い場合に、もしくは現れる前に、パートナーや家族、子育てサポートといった育児協力環境を整えておきましょう。育児の協力体制を築くことで、母親が休む時間を作ります。育児をパートナーに任せても安心できるよう、出産前から「父親教室」などに通っておくこともお勧めします。

産後は育児だけではなく、自分の時間を持ち気分をリフレッシュする時間を作ってみて下さい。栄養面にも気をつけ、ビタミンや鉄分が不足して体調不良を起こさないようにしましょう。育児の時間を必ずしも平等にする必要はありませんが、パートナーと自分が一番納得できる形を模索することが大切です。パートナーが十分に時間を取れない場合は、両親や兄弟にもサポートしてもらいましょう。

周囲に協力を求められる人がいない場合は、各自治体にある子育てサポートに相談して下さい。また、信頼できるベビーシッターを利用することも良いでしょう。
悩み事はすぐに誰かに相談するようにしましょう。相談しても解決しないことでも、悩みを打ち明けることで、心は軽くなります。一人で子育ての悩みを抱え込まないことが、最も産後うつの予防に繋がります。

この記事の監修

ひらた女性クリニック 院長平田 英司

みなさんこんにちは、ひらた女性クリニック院長の平田英司です。
長崎大学医学部を卒業し広島大学産科婦人科学教室に入局して以来、25年以上にわたり総合病院勤務医として婦人科腫瘍、産科、女性医学、不妊と産婦人科の四つの診療分野につき幅広く研鑽を積んで来ました。婦人科は広島県の代表的な婦人科腫瘍専門医として手術執刀を含め診療の中心的役割を担い、産科はNICU 設置病院に主に勤務し総合的周産期医療に従事してきました。
しかし、こと外来診療に関しては、仕方がないことですが、総合病院の外来はどこも効率優先から待ち時間が長く診療時間が短くなりがちで、病気や問題の本質にせまり難く、これがストレスになっていました。
患者さんも医師も納得する診療、とにかくていねいな診療、これを実現するべく自分のクリニックを開院させて頂く運びとなりました。一見軽微に思える症状でも、また症状がなくとも抱えた問題について気軽に相談でき、かつ専門的診療まで実施可能で、さらに広島市内県内のみならず全国の高次医療機関への紹介が可能な「究極のかかりつけ医」を目指します。
「どうせうまく治らない」「どうせわかってくれない」「女性医師でないからわからない」と思いつつでもいいから、気軽に受診して下さい。必ずや、あなたの問題を一緒に解決し、快方に向かわせられると思います。

【経歴・資格・所属学会】

【略歴】
広島県呉市出身、幼少期は福山市育ち
広島市立袋町小学校, 広島大学附属中・高等学校 出身
長崎大学医学部医学科 卒業
広島大学産科婦人科学教室 入局
以後、JA尾道総合病院、呉共済病院、公立御調病院、四国がんセンター、
広島大学病院(診療講師、統括医長、医局長)、東広島医療センター(医長)に着任

【資格】
医師免許
学位(甲、広島大学大学院 医歯薬保健学研究科 外科系専攻)
日本産科婦人科学会専門医・指導医
婦人科腫瘍専門医
細胞診専門医
母体保護法指定医

【所属学会】
日本産科婦人科学会(専門医・指導医、役員(幹事)歴あり、代議員歴あり) 
日本婦人科腫瘍学会(婦人科腫瘍専門医、代議員歴あり)
日本臨床細胞学会(細胞診専門医)
日本周産期・新生児学会 
日本女性医学学会(旧更年期学会)
日本産科婦人科遺伝診療学会
日本エンドメトリオーシス学会(旧内膜症学会)
日本癌治療学会
日本癌学会

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