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多発性硬化症 | 症状から調べる | ファミリードクター

多発性硬化症

多発性硬化症とは、自己免疫のトラブルによる脱髄疾患で、厚生労働省の指定難病に定められる神経系疾患です。「脱髄」とは、脳・髄・視神経等の中枢神経を守る髄鞘(ずいしょう)と呼ばれる部分に、自己免疫トラブルによる炎症が起きている状態を指します。

この「脱髄」が原因で中枢神経の至る箇所に病巣ができ、視力や感覚、運動機能等、様々な症状が併発します。また「多発性」とは、病巣が中枢神経内部に分布しては再発を繰り返す「空間的・時間的多発」を意味し、この多発性硬化症の特徴でもあります。「硬化症」は病巣の多発により、古くなった病変組織が硬くなる状態を指します。

多発性硬化症は「再発寛解型」と「一次性進行型」、「二次性進行型」の3つに分類されます。「再発寛解型」は再発(症状が出る)と寛解(症状が治まる)を繰り返すパターンで、最も多い病型です。
「二次性進行型」は当初、再発緩解型で始まったものの、緩徐に症状が進行するものです。「一次性進行型」は発症から緩徐に進行します。

日本での多発性硬化症の頻度は、10万人のうち8~9人程度と比較的発症率が低い病気ですが、日本全国の患者数は12000人程と推測されています。欧米や北ヨーロッパの高緯度に位置するほど患者数が多く、人種による遺伝子的な発症率の違いもあるとも考えられています。

多発性硬化症の原因

多発性硬化症の明確な原因はまだ発見されていません。しかし、研究により自己免疫にトラブルが生じることに起因するのではないかと考えられています。
多発性硬化症が発生する仕組みとして考えられているのは、次の通りです。

自己免疫は、主に白血球やリンパ球により機能されています。しかし、神経組織内の情報伝達物質であるミエリン(髄鞘)が自己免疫機能による誤った攻撃を受け、炎症を起こすことで脱髄状態になります。この脱髄が、中枢神経内の各所に病巣を作り多発性硬化症の発症に繋がるのです。

自己免疫機能に誤作動が発生する理由はいまだ解明されていません。考え得る要因としては、遺伝・喫煙・ウイルス等感染因子・血中ビタミンD濃度等が挙げられます。遺伝的要因に関しては、体質遺伝子であるヒト白血球抗原(HLA)が大きく関連し、HLAの存在により発症の確率は高まる可能性があるとされています。しかし、多発性硬化症自体が子へ遺伝はすることはありません。

多発性硬化症の症状

多発性硬化症の症状は、病巣がどの神経を傷つけるかで変わってくるため個人差があります。同じ患者であっても、症状の出方や度合等はその日によって異なります。また、病気の初期段階では、損傷を受けたミエリン(髄鞘)が回復し、症状が一旦落ち着くこともあります。

多発性硬化症の代表例

感覚障害
  • 触覚や痛覚が鈍る、または敏感になる
  • 手足の痺れ・ひりひり感
  • 腰から足にかけての痛み 等
運動障害
  • 手足の力が弱くなる
  • 体のつっぱり
  • 体のふらつき
  • 呂律が回らなくなる 等
視力障害
  • 急な視力低下
  • 視界がぼやける
  • 色がわからなくなる
  • 目の奥の痛み 等
その他
  • 倦怠感
  • 排尿障害
  • 集中力の低下

多発性硬化症の検査方法

多発性硬化症の検査方法には、MRI等の画像検査や誘発電位等の生理検査、髄液検査があり、脳・脊髄・視神経等の中枢神経に対して行われます。下記では、それぞれの検査方法を具体的に記します。

多発性硬化症の検査方法

MRI検査

一般的な頭部MRIに加え、造影剤を使用します。ガドリニウム造影剤を使用し、病巣部分を画像に白く映らせて確認します。

誘発電位

中枢神経の伝わり方を、電気や磁気で検知して数値化する検査方法。この検査で、脱髄によって脳の情報伝達が遅れていることが確認できます。症状が出ている部位等、患者に合わせて、視覚、聴覚、体性感覚と3種類の誘発電位を応用して検査が行われます。

髄液検査

腰のあたりから7cm程の長い注射針を使い、脳や脊髄を包んでいる髄液を採取する検査方法。腰椎穿刺(ようついせんし)とも呼ばれます。この検査をすることで、病変部位に炎症反応があるかどうかを確認できます。

多発性硬化症の治療

多発性硬化症は、現在のところ完治する治療方法はありません。ただ、内服の薬を調整することで再発する可能性を抑えながら、一般の人とほぼ同じ生活を送ることは可能です。内服調整には専門的知識が必要ですので、神経内科専門医が在籍する医療機関で診てもらうとよいでしょう。

多発性硬化症の予防

多発性硬化症の予防で最も重要なのは、再発の危険因子をできるだけ取り除くことです。危険因子としては、過労やストレスが挙げられます。そのため、疲れを感じたらしっかり休養を取り、ストレスをためない工夫をすることが大切です。また、体温が高くなると一時的に調子が悪くなるだけでなく、別の症状が生じる「ウートフ徴候」が出る場合もあるため、暖房の温度設定や長風呂には注意が必要です。その他にも、再発防止のためには、リハビリとして日頃から適度な運動を取り入れるとよいでしょう。リハビリに効果的な運動は、柔軟体操、手足のコントロール訓練、筋力トレーニング、呼吸発声訓練等様々なものがあります。

この記事の監修

向井内科・脳神経内科 院長向井 智哉

昭和54年に開院した向井麻酔科外科医院を継承し、令和2年4月1日にリニューアル開院しました。41年支えてくださった地域の皆様にお礼申し上げるとともに、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

このたび、生まれ育った矢野でクリニックを開業することができ非常に嬉しく思います。勤務医時代には脳神経内科医として脳卒中の急性期治療や頭痛、認知症などを中心に診療していました。今後はその専門性を活かしつつ、内科医として幅広い診療を心がけます。信頼される地域のかかりつけ医を目指しますので、よろしくお願いいたします。

【経歴・資格・所属学会】

【学位】
・医学博士

【専門医】
・日本内科学会認定 総合内科専門医
・日本神経学会認定 神経内科専門医
・日本脳卒中学会認定 脳卒中専門医
・日本脳神経血管内治療学会認定 脳血管内治療専門医
・日本頭痛学会認定 頭痛専門医
・日本動脈硬化学会認定 動脈硬化専門医
・日本脳神経超音波学会認定 脳神経超音波検査士
・日本認知症学会認定 認知症専門医

【認定資格】
・難病指定医
・身体障害者福祉法指定医
・認知症サポート医(オレンジドクター)
・産業医
・ボトックス®治療資格

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