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手足のつっぱり「痙縮(けいしゅく)」へのボツリヌス療法

2020/08/12

脳卒中の後遺症として、片麻痺(まひ)が起こる事は多くありますが、手足がつっぱったりすることで、服の着替えに苦労したり、手の指が曲がって手が洗いづらくなったという相談が増えてきています。

こうした手足のつっぱりは、「痙縮(けいしゅく)」という症状で、筋肉が緊張することで起こります。

脳卒中が発症して病院を退院する頃から時間の経過と共に片麻痺(かたまひ)と一緒に現れることが多くありますが、この症状を長い間症状を放っておくと関節が硬くなりその結果、関節の動きが制限された「拘縮(こうしゅく)」という状態となってしまうことがあります。

痙縮があると手足の筋肉の緊張によって次のようなことが起こります。

  • 肩やひじが固まったように動かず、着替えや入浴に苦労する
  • ひじが曲がったまま伸びず、人や物にぶつかってしまう
  • 手首やひじが曲がったまま伸びず、ものをつかみにくい
  • 手の指が曲がったまま伸びず、手洗いや爪切りがしにくい
  • つま先立って、かかとがつかず、歩くときのバランスが悪い
  • 足の指が曲がったまま伸びず、体重がかかって痛みが生じる

痙縮を改善するための治療法

こうした症状があると日常生活に支障が生じたり、リハビリの障害となることもあるので、こうした症状を改善するための治療法がいくつかあります。

  • 飲み薬:緊張している筋肉を緩める働きのあるお薬を服用します
  • 注射薬:筋肉を緊張させている神経の働きをおさえるお薬を注射します
  • バクロフェン髄注療法:バクロフェンという痙縮(けいしゅく)をやわらげる薬の入ったポンプを、おなかに植込み、薬を脊髄周辺に直接投与します
  • 手術:筋肉を緊張させている神経を部分的に切断したり、太さを縮小したりする手術

いろいろな治療法がありますが、ボツリヌス療法というボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を緊張している筋肉内に注射する治療法が最近ではいろいろな施設で受けられるようになっています。

ボツリヌス療法スケジュール例

次の投与まで3〜4ヶ月の期間があります。(個人によって異なる場合があります)

(1) 治療目標設定
投与日予約
痙縮によって困っていることなどを医師と相談し、
治療の目標を決め、投与日の予約をします。
(2) 投与 初回投与を行います。投与した後は経過観察を行います。
(3) 受診(1〜2回)
次回投与日予約
医師と症状を相談しながら、
次回投与日を予約します。次回投与日まで経過観察を行います。
(4) 投与 2回目投与を行います。2回目投与以降は(3)〜(4)を繰り返します。

注射の効果は3〜4ヶ月続くので緊張した筋肉が緩んでいる間にリハビリやストレッチなどをすることで手足のつっぱりが緩んできます。効果が弱くなると再度注射をすることで再び手足のつっぱりが緩むという治療法です。

まだまだこうした治療をご存知ない方も多く、脳卒中の後に手足がつっぱっていても治療ができないと思い諦めている方も多くいらっしゃいます。

特に長年つっぱった状態が続いている方は、その状態を受け入れて生活していると言われる方もいらっしゃいますが諦めずに、脳神経外科や脳神経内科、リハビリテーション科の医師に一度ご相談されることをオススメします。

コラムニスト

院長  田邉 智之 

広島市安佐南区山本新町の春日野に令和元年11月1日開業いたしました田邉智之と申します。これまでは広島市民病院で脳神経外科を専門として、脳卒中・救急医療を中心に診療して参りました。その中でも、脳血管内治療(カテーテル治療)による急性期脳卒中の診療に力を注いで参りました。日々、急性期医療の重要性を感じておりましたが、また同時に、脳卒中を起こさせない予防医療の大切さも痛感いたしました。今後は地域に密着し、少しでも多くの患者様が大病にならない様、かかりつけ医として貢献したいと考えております。

たなべ春日野クリニックでは一般内科から動脈硬化のリスクである、高血圧、糖尿病、高脂血症など様々な疾患のトータルマネージメントを実践し、眩暈・頭痛・腰痛、認知症など様々な疾患に対しても“丁寧に、わかりやすく”をスタッフ一同心掛けて、診察・検査・治療を行ってまいります。

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