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ドクターX 外科医 大門 未知子は、発達障害か?

2019/11/20

「ドクターX 外科医 大門 未知子」を発達障害のチェックリストで分析してみたいと思います。

大門未知子って誰?

「大門未知子って誰?」という人は少ないと思いますが、少し説明しておきましょう。

「ドクターX~外科医・大門未知子~」というテレビドラマのヒロインです。私も毎週楽しみにしています。今や日本で一番見られているドラマかもしれません。地域によってはあの国民的番組であるNHKの朝の連続テレビ小説を抜いてしまいます。時には視聴率が20%近くなりますから、とんでもないお化け番組なのです。ちなみに視聴率10%で約1000万人が見ているという説もありますから、約2000万人が見ているといえるかもしれません。実際に私が教えている大学生に聞くとほとんど見ているので、まんざらでもない数字でしょう。米倉涼子さんが天才外科医を怪演とでもいうのでしょうか、とにかくものすごい迫力で演じています。 

大門未知子の実態把握

さて、ここで大門未知子について紹介します。チェックリストにかける前に実態把握をしておきましょう。該当者においてエピソードや行動の特徴について実態を捉えることを実態把握と言います。

ウィキペディア「ドクターX~外科医・大門未知子~」を参考にしました。

大門未知子は、「私、失敗しないので」が決め台詞。どんな困難な手術でも失敗はしないフリーランスの天才外科医です。身分の保証されていない不安定な立場の非正規の外科医ということになります。手術以外の医師同士の付き合いは一切しません。上司の言うことも聞きません。患者とのトラブルも多くあります。お金には全く興味はありません。非正規だからといって臆することはこれっぽっちもなく、院長だろうが有名人であろうが言いたいことは言ってしまいます。24時間頭の中は手術のことでいっぱいです。履歴書に趣味・手術、特技・手術と書いています。

この大門未知子、医師としての能力は極めて高く、患者の周辺状況などから事前に容態の変化などを想定する洞察力も併せ持っています。「私、失敗しないので」という台詞、自分は医療ミスを絶対に起こさないという自分への誓いのようにも受け取れます。

教授の下働きやゴルフや飲み会などの付き合いを「いたしません」の一言ですべて拒否します。大学病院内では組織の一員としては周りから疎んじられたり嫌われたりしているのです。いわば、他者とはつるまぬ一匹狼的な存在です。「医師免許をもたなくてもできる作業は一切いたしません」と言い切ります。病院長が握手を求めて来ても拒否するのです。その時の台詞は「いたしません」です。手術以外では生意気、傲慢、いい加減な大門未知子ですが、医師としての責任感だけは人一倍強く、患者のために治療をあきらめるようなことはしません。


さらにこんなエピソードもあります。

いつもの服装は、医師には決してそぐわない派手なミニスカート、ハイヒールです。全てファッション雑誌のモデルのまねです。食べ物は、肉を好んで食します。余暇はクラブで踊ったりしていますがダンスはうまいとは言えません。麻雀もよくやりますが、下手で勝てません。卓球場や銭湯などいつも同じような余暇の過ごし方です。手術以外のスキルは皆無に等しいといえるでしょう。


今は、第6シーズンになりますが、最初の放映は2012年10月なので7年前となります。初期の頃は病院長への返事である「御意(ぎょい)」を嫌い、カンファレンスへの出席も拒否していましたが7年経ってカンファレンスには出席するようになりましたし、「御意」という返事をする回数も増えてきています。さらに最初はバイト扱いされて、「バイトのくせに」なんて言われると「フリーランス」といちいち言い直して怒っていましたが、今はあえて自分の立場を「バイト」と言ってやり過ごすような場面も出てきました。

大門未知子をこのチェックリストで評価してみましょう

文部科学省は、2013年に全国の小中学生に対して調査を行っています。それは、通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある子どもの数についてです。その中で以下の27項目で「0:いいえ」「1:多少」「2:はい」として合計が22点以上で対人関係やこだわりなどという行動面に著しい困難さがあるとしています。結果は、3.6%の子どもが該当しました。1クラスに1~2人という数字となります。

チェックリスト

  1. 大人びている。ませている。
  2. みんなから、「○○博士」「○○教授」と思われている。(例:カレンダー博士)
  3. 他の子どもは興味を持たないようなことに興味があり「自分だけの知識世界」を持っている。
  4. 特定の分野の知識は蓄えているが、丸暗記であり、意味をきちんと理解していない。
  5. 含みのある言葉や嫌みを言われてもわからず、言葉通りに受け止めてしまうことがある。
  6. 会話の仕方が形式的であり、抑揚なく話しかけたり、間合いが取れなかったりすることがある。
  7. 言葉を組み合わせて、自分だけにしかわからないような造語を作る。
  8. 独特な声で話すことがある。
  9. 誰かに何かを伝える目的がなくても、場面に関係なく声を出す(例:唇を鳴らす、咳払い、喉を鳴らす、叫ぶ)
  10. とても得意なことがある一方で、極端に不得手なものがある。
  11. いろいろなことを話すが、その時の場面や相手の感情や立場を理解しない。
  12. 共感性が乏しい。
  13. 周りの人が困惑するようなことも、配慮しないで言ってしまう。
  14. 独特な目つきをすることがある。
  15. 友達と仲良くしたいという気持ちはあるけれど、友人関係をうまく築けない。
  16. 友達のそばに居るが、一人で遊んでいる。
  17. 仲の良い友人がいない
  18. 常識が乏しい。
  19. 球技やゲームをする時、仲間と協力することに考えが及ばない。
  20. 動作やジェスチャーが不器用で、ぎこちないことがある。
  21. 意図的でなく、顔や体を動かすことがある。
  22. ある行動や考えに強くこだわることによって、簡単な日常の活動ができなくなることがある。
  23. 自分なりの独特な日課や手順があり、変更や変化を嫌がる。
  24. 独特なものに執着がある。
  25. 他の子どもたちから、いじめられることがある。
  26. 独特な表情をしていることがある。
  27. 独特な姿勢をしていることがある。

結果は以下の通りです。1点については、(   )内に理由を書いています。

1:2点、2:2点、3:2点、4:0点、5:2点、6:1点(私失敗しないので、いたしませんを多用する)、7:0点、8:0点、9:0点、10:2点、11:2点、12:1点(患者以外に対してはありそうです)、13:2点、14:0点、15:2点、16:2点、17:0点、18:1点(医学以外にはありそうです)、19:2点、20:2点、21:0点、22:1点(手術のことを考えると食事もしないほど没頭してしまいます)、23:1点(定時の動きをしている)、24:2点、25:1点(医局の他の医者からいじめられているように描かれていますが本人は気にしていません)、26:0点、27:2点、合計32点となります。

結果として、対人関係やこだわりなどという行動面に著しい困難さがあると判断できます。

ドクターX・大門未知子は、発達障害か?

文部科学省のチェックリストにかけると32点で判断基準の22点以上となり、対人関係やこだわりなどという行動面に著しい困難さがあると判断できます。 しかし、本人の困っている様子は感じられません。仕事も生き生きとやっています。患者からも感謝されています。困っているのは同僚や上司だけかもしれません。

けれども、その上司や同僚でさえ、手術の腕においては一目置いています。手術に向き合う姿勢は尊敬さえされているのです。

文部科学省のチェックリストも教師から見てのチェックです。困っているのは指導がうまくいかない教師ということになるのでしょう。個別のスペースなど環境を整備してその子どもにあった学び方や生活の仕方を用意できれば、教師の指導もうまくいくことになるでしょう。友達との関わり方も言い方や遊び方のモデルを示すなどの支援を入れるなどの工夫もできるかもしれません。そして友達や支援者ができてくると適応が良くなるものと思われます。

大門未知子には、岸部一徳が演じる名医紹介所長や内田有紀演じるフリーランスの麻酔医という支援者がいます。大門未知子がその能力を発揮できるのも支援者が周りにいるからなのです。たとえ、チェックリストで32点であったとしても、大門未知子は発達障害とは判断できないのではないでしょうか。 発達障害は「個性」であるという意見もあります。しかし、ただの「個性」として片づけてはいけないと思います。「支援のいる個性」なのです。支援者が周りに存在すれば、世の中のリーダーや発明家、改革者になる可能性を持っています。私は、長年中学校、高等学校、大学等で教師をしてきました。その経験の中で大きな可能性を持つ若者をたくさん見てきました。

大きな可能性を持った若者を社会全体で支えられるような世の中にしなければいけないと願っています。

コラムニスト

公認心理師・臨床心理士・特別支援教育士スーパーバイザー
  竹内 吉和 

私が大学を卒業してすぐに教師となって教壇に立ってから30年が過ぎ、発達障害や特別支援教育について講演をするようになって、10年以上が経ちました。特別支援教育とは、従来知的な遅れや目が不自由な子供たちなどを対象にしてきた障害児教育に加えて、「知的発達に遅れがないものの、学習や行動、社会生活面で困難を抱えている児童生徒」にもきちんと対応していこうと言う教育です。
これは、従来の障害児教育で論議されていた内容をはるかに超えて、発達障害児はもとより発達障害と診断されなくても認知機能に凹凸のある子供の教育についても対象としており、さらに子供だけでなく我々大人も含めたコミュニケーションや感情のコントロールといった、人間が社会で生きていくうえにおいてもっとも重要であり、基礎的な内容を徹底して論議しているからであるととらえています。

そのためには、児童生徒一人ひとりの教育的ニーズを把握して適切な教育的支援を行う必要があります。ここで、単に教育とせず、教育的支援としているのは、障害のある児童生徒については、教育機関が教育を行う際に、教育機関のみならず、福祉、医療、労働などのさまざまな関係機関との連携・協力が必要だからです。また、私への依頼例からもわかるように、現在、小・中学校さらに高等学校において通常の学級に在籍するLD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、知的に遅れのない自閉症(高機能自閉症・アスペルガー障害)などの児童生徒に対する指導及び支援は、喫緊の課題となっており、これら児童生徒への支援の方法や指導原理や全ての幼児・児童生徒への指導は、私達大人を含めて全ての人間が学び、関わり合うための基礎といえるコミュニケーション力を考える上で必須の知識であることを色々な場で訴えています。

今までたくさんの子供たちや親、そして同僚の先生方と貴重な出会いをしてきました。また、指導主事として教育行政の立場からもたくさんの校長先生方と学校経営の話をしたり、一般市民の方からのクレームにも対応したりと、色々な視点で学校や社会を見つめてきたつもりです。ここ数年は毎年200回近くの公演を行い、発達障害や特別支援教育について沢山の方々にお話をしてきました。そして、満を持して2014年3月に広島市立特別支援学校を退任し、2014年4月に竹内発達支援コーポレーションを設立致しました。
今後は、講演、教育相談、発達障害者の就労支援、学校・施設・企業へのコンサルテーション、帰国子女支援、発達障害のセミナーなどを行っていく所存です。

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